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神々の生成


 
 前段までで地上のすべての舞台設定が完了すれば、次はそこを舞台にして、歴史が展開されていく番である。この段で揚げられる神名によって、それがどのようなものであったかが分かる仕組みになっている。

ジャンル 神名 中間解釈 結果の解
イザナギ、イザナミの二神は、国生み後に次の神々をお産みになった
[建設] 大事忍男 大事推し 大土木事業の推進
石土毘古、石巣比賣 石土造建造物、住居
大戸日別 戸窓で日を制御 遮光、採光設備
天の吹男 天から吹き込む 換気設備、天窓
大屋毘古 大きな館 大規模な建物
風木津別忍男 風の持ち分けの推進 通風、送風設備
[海洋] 大綿津見 大渡の海 海洋の大航海
[港] 速秋津日子、比賣 物資の速飽きの津 貿易港、流通港
[河海] *沫凪、沫波 勢いよい水の制御 運河、水路の水量調整
*頬凪、頬波 滑らかな水の制御 ダム貯水池の水量調整
*天の/国の水分 水を分配するもの 上水道、下水道、水路
*天の/国のクヒザモチ 水を汲むもの 上水道の末端設備
[風] シナツヒコ 風にしなる 木の樹齢の譬えにより
時の経過の長さを示す
[木] ククノチ 木の股を潜る
[山] 大山津見 大きな山並み 山岳
[野] 茅野比賣(野椎) 茅茂る野原 一面の野原
[山野] *天の/国の狭土 細かい区画 国土の細分、領有
*天の/国の狭霧 区画の線引き 縄張り(の主張)
*天の/国の闇戸 倉の戸 世相の暗転
*大戸惑子、大戸惑女 大きな戸と窓 大混迷の世相(時代)
[火] 鳥の石楠船(天の鳥船) 空飛ぶ堅牢な船 航空機、戦闘機
大宜都比賣 大規模な生産 大工業生産
火の夜藝速男 燃焼が速いもの 石油の利用
(火のカガビコ) 炎が輝く有様 石油などの燃焼促進
(火の迦具土) 炎で輝く土 火薬
イザナミの神は、ミホトを焼かれて病気になり、寝込んでしまわれた
[吐物] 金山毘古、毘賣 金の山 金属工業の隆盛
[糞] ハニヤス毘古、毘賣 土で安んずる 非金属工業の隆盛
[尿] ミツハノメ 満つ・葉・飲め 多種大量製品と需要
和久産巣日 湧く・結び 需要供給を結ぶ経済
*豊宇気毘賣 豊富をさばく受皿 流通機構、市場
イザナミの神は、火の神を産んだことにより、遂にお亡くなりになった
[]はその神にちなむ場所、*は直前の男女二神により生まれた神
()は直前の神のまたの名


失われた超文明の風俗と歴史の成行


それは一つの文明の風俗描写から始まった。大事業の推進とは、大土木工事のこと。石でできた家、館、神殿などが造られ、採光、送風など、建築物の主要な構成要素が挙げられている。
次に、「大綿津見」(大渡つ海)で大航海を暗示し、港を示す「速飽き津」で物資の速やかな充足を図る貿易港を暗示している。
さらに水との関連から、運河や水路の水量の調節の様子、水の分配や採水設備について語っている。
その次は、風、樹木、山野の神名で長い時の経過と雄大さを示し、のどかさを感じさせる情景描写である。
だが、その次から二通りの意味を帯びてくる。 縁語を使い、わざと両面から話を進めているのだ。
それまでの流れからいうと、土木関連用語を並べ、倉庫の扉や大きな窓からの採光について語っているようにみえる。ところが、もう一方では、区画線引による領土や縄張り争いから、利己的な心根が招く世情の暗転や大きな混迷について語っているのである。
すると、その次には石や楠のように堅牢であるが鳥のように速やかに飛ぶ船、飛行機が登場してくる。
これは歴史の必然なのか??!!

 

大宜都比賣は穀物生産の神であるが、ここでは工業生産に関係した表現となる。
大規模な生産が始まり、急燃焼するもの(石油など)の登場によって、生産神イザナミの病態、さらに死へと繋がっていくのであるが、その前に、イザナミのミホトによらぬ嘔吐物から金属工業が、糞から非金属土類の(セラミックなどの)工業が、尿から満ち溢れた種々の物を飲み取るだけの需要、湧き出る生産物をそれに結びつける経済体制、その下に豊かな受皿としての市場流通体制が生まれたという。
この部分はまさに、現在の我々の世界の有様を、先取りして語っているように思われてならない。
一応、イザナギ、イザナミの二神の協力で創られた神々という扱いになっているが、あまり良い展開ではなかったことを、汚物からの神生みで表現しているわけだ。
つまり、根底には利己主義、利益主義の影が濃厚に横たわっており、そうである限り、その先には着実な歩みで(必然的に!!)黄泉の国が到来すると、古事記は語っているのである。

 

しかし、これらのことは過去にあったことであり、決して今の世にそのような進展を保証するものではない。
では、この節で語られる過去とは、いったい何をモデルにしたのであろう。
それは、一万年前に栄えたという、かのアトランティス文明ではないかと考えられる。
プラトンの著作「ティマイオス」によれば、先古ギリシァ時代にアトランティスという国家がジブラルタル海峡の外に広大な島上にあり、多くの植民地を持って君臨し(ヨーロッパではイタリア中北部、アフリカではエジプト、アメリカ大陸に及んでいた)ていたが、なおもアジアに向けて大軍を以て侵攻したとき、アテネ軍を最強としたギリシァに敗れた後、恐ろしい地震と洪水が起こり、アトランティスは海中に没したという。
もう一つの書「クリティアス」によれば、アトランティス島には、全島にわたる美しく豊かな平原があり、その近くの丘に、支配者ポセイドンは都を構え、海水と土でなる大小様々の環帯を交互に造ったという。環帯には、海から港へ入る通路が開かれ、大きな船が出入りでき、また環帯から次の環帯へ三段櫂船で移動できたという。

 「神々の生成」の段の前半部分が、港や水利設備に関して特別な記載をしているのは、偶然のこととは思えない。これらはアトランティス島の特徴である。
その文明のレベルは、ちょうど中世からルネサンス期にかけてのヨーロッパほどであったかも知れない。
だが、文明は一度火がつくと急激に進展をみせる。産業革命から、はや二百年で宇宙に人が飛び、核兵器が世界に充満した。
よく考えてみると、その原動力は人間の飽くなき知識欲や探求心といった綺麗事でも、人間の生活をより豊かにしようという高尚な欲求によるのでもなかった。他を凌ぐための飽くなき利益追求のために競争を激化させたというのが本質ではなかったか。
そこに触媒的な作用をする石油などの燃焼原料や軍事兵器類の登場があり、事態を深刻化したのである。
古事記は利己主義的迷妄の世情の先に黄泉の世界、さらにその先に生命枯渇の天変地異の事件(いずれも後述)を置いて、強く現代を戒めているのである。


 黄泉の国へ 

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