物語







ももたろう伝説ことなり記

              作/奥人



前話> コカドのもとで瞑想の日々を過ごしたミユも、ノボの素行が心配になり、赴いたノボの留守宅ですさんだ生活の様を垣間見てしまう。その最中にも合議はヤマト対策であわただしい。テイタはノボの副首長の座を不動のものにとスンニ族との連携策を授け、妻の座をあてこんだ挙動に出るが・・。




第五章  秘花






突然のテイタの懇願に、ノボは驚きます。

『兄弟が、人質にでもなっているのか?』

『そうだよ』

『ほんとうに人質なのか? とすると、よもや、君はヤマトの・・・』

芥子の作用は、ついぞの気の緩みを誘うのか、
テイタは、思わぬ勇み足に、はっと気がつきました。

「ああ」と、嗚咽に似た吐息をもらすと、
裸のまま壁を背にしてうなだれてしまいました。

そして、小声で言い放ちます。

『神様のくせに、今頃分かったふりしやがって』

そう言うや、大粒の涙をこぼし始めました。
気丈なテイタが人前で泣くのを、ノボは初めて見て、昔の記憶を辿ります。

『君が泣くなんて・・。だが、おれは以前にも見たことがある』

『?』

『十年以上ともに暮らしてきたが、おれが寝入った後に、よく泣いていただろう?』

『盗み見したね。ああ、そうさ。あんなことさえなければ、私たちは幸せだった。
あんたの同類だという神によって散々な目にあい、その神から指図されて、今こうしているのさ。
情けない時に、人は泣くものなんだよ』

ノボは、じっと壁にうずくまるテイタの腕を取り、もういちど抱き寄せました。

『テイタ。君の恩は忘れてはいない。今度はおれが君を助ける番だ。
君の過去に何があった? わけを知りたいんだ。ヤマトの神と何があった?』

無答の時の流れる抱かれて揺れる沈黙の中で、テイタは天井を見つめながらぽつりと言います。

『神様でも知らないことがあるんだね』

テイタの神とは天上界にいて、人間界のすべてを掌握し、
互いに意志疎通が図られているというもののよう。
本当に自分を神などと思っているのだろうかとノボは思いつつも、
この際、神という言葉の力に乗ってみようと思いました。

『神は大勢いるんだ。良いのもいれば、悪いのもいる。
人間に興味のないのもいれば、おれのように人間に成りきって、ばかを演じたがるやつもいる。
他の神に知られたくない秘密を持つ、ヤマトの神のようなやつだっているんだよ』

テイタは、『へえっ』と驚き、髪の毛のくっついた涙顔をノボに向けます。

『だが、神どうしで話し合えば、もっと分かり合えるかもしれないことは言える』

目を皿のようにして見つめるテイタ。すかさず唇を重ねるノボ。
テイタもやがて、信頼を渾身の力で表わすかのように、下からノボを抱き締めました。

たしかに同じ世界にいた人間なら、現代日本語で通じるかもしれず、その縁から人間関係が円滑になることもあります。うまくすれば、ヤマトと吉備の友好に発展するかもしれません。
不確実でありながら、可能性なきにしもあらずの妙案でした。

ノボはそのレベルで物を言ったのですが、テイタには効いたようです。
ひとしきりの後、涙を布団の裾でぬぐい、座って深くノボに拝礼すると、こんなことを言いました。

『あなたは良い神様だったのですね。どうか、わたしのしてきたことを許してください』

『許す? うむ。ほんとうのことを言うなら、許してもよい』

『では、ほんとうのことを申します。
実はわたしは、アキのスンニの族長ハラの娘です。
十五年前のヤマトの侵攻で、親類は殺され、
兄弟がヤマトに人質として囚われました。
父は部族を束ねるために残され、ヤマトの執政官を補佐しています。
兄弟さえ助かれば、わたしの父は、執政官を斬り、必ずヤマトと対抗するでしょう。
でも、今はヤマトに従うしかないのです』

ノボがびっくりしたのは、言うまでもありません。
つい昨日、同盟の申し込みの使者を立てた先が、敵方だったことになります。

『では、君がここにいるのは、偵察のためだったわけだね』

テイタは、わずかにうなずくと、はらはらと泣き出しました。

『テイタ。よく話してくれた。
こんな話を他の者にすれば、大変なことになる。
大丈夫だ。君との話は、誰にも秘密にしておこう』

首長や長老衆に素直に話せば、テイタへのおとがめも多少は緩和され、
ヤマトの戦法の全容が解明できるかもしれません。
しかし、ノボは、彼女が傷つかないようにと考えました。

『ほんとうですか? わ、わたし、あなたが慈悲深い神だとわかって・・。
大それたことを・・・。 後悔しています。どうか、お許しを・・』

たいへんな誤解でした。
神を語る自分は何なのでしょう。

テイタの変貌ぶりを見て、ノボも涙が出てきました。
ここまで懺悔する者に対して、どう非難できましょう。
加えて、ヤマトの策に引きこまれた吉備をどうすれば良いか思案せねばならなくなりました。

また、これほど変化したテイタが、なおも吉備に残るとも思えず、
その夜は語り明かすこととなりました。

ここでテイタのヤマトにおける過去について簡単にお話ししましょう。





テイタは、十四才で、ヤマトに兄弟とともに囚われていきました。

ヤマトでは決して悪い暮らしではなかったのですが、教育が彼女に課されたのです。
一つは、思想教育。もう一つは、密偵としての教育でした。

その思想教育の中で、彼女は一人の神を信奉させられたのです。
神名は、"ニキル"といいました。
天から従者とともに降りてきて、その地方に新しい文化を教えたのみならず、
不思議な術で人の病気を癒し、時には死人をも蘇えらせたと伝えられていました。

テイタは、ニキルに直接会ったわけではありません。
テイタの囚われてくる四十年前に、この神は亡くなっていたからです。
ただ、神業のような医術を見てきた古老から、当時の様子をなんども聞かされました。

その神は、それより遡ること二百年以上前に、
遠い外国にいて、人々を教え導いたとか。
余生を送るべく、この地に来て亡くなり、
復活して国を安らかにするために天から降りてきたというのです。

神は当初、慈悲ぶかく、分け隔てない愛を説いていたといい、
その教えと伝説を聞くだけで、当時の性根の優しい多くの人々は信仰してしまいました。

そして、斬新なデザインの祭器が作られ、今までのどんな実用にも無関係な形とその美しさに、人々は言い知れぬ神秘を感じ、酔いしれたといいます。
それが今に出土する銅鐸とか。

それはすぐに、自然の精霊を称える土着の習俗に、とって代わろうとしました。
しかし、古老たちの反対に遭い、なかなか事が進まないでいたところ、
九州地方からヤマトの軍が征服にきて、大戦になったのを機に、
この神は長引く戦から民人を救うためとして、多くの信者を従え、
ヤマトに投降してしまいました。

こうして、元あった国は内部から瓦解し、指導者は殺され、
国、民ともにヤマトのものとなりました。
まあ、民人が多く損なわれずに済んだことは確かでした。

ところが、このニキル神、ヤマトが光明神信仰であることを尊び、
ヤマト大王に対し、天神の位階を譲与する儀式をして、

自らは臣下におさまってしまいました。

やがてニキルは、自らの系統の存続の道を確保した上で、亡くなりました。
また世が乱れたときに復活するだろうという噂を残しながら。

いっぽうヤマト大王は、王権が神授されたことにより、
いよいよ日本征服に向けての弾みがかかることになりました。

さて、二百年以上前に日本に来たと噂される神とは、誰あろう、キリストです。
このとき、人々に愛と従順さの重要性を説いていたかどうかは
知れません。ただ、キリストの墓なるものが残るのみです。

しかし、復活してニキルとして現れたヤマトの地では、
神への信仰と従順さの重要性が説かれたに違いありません。
こうして人々は、非情な戦さで知れるヤマトのやり方にも、
神の威光を感じ、従うようになったようです。

テイタはやはりこの神への忠誠を誓わされていた信者でもありました。
その一方で、兄弟の保身のためにも、
吉備を攻略すべく、指令を受けて働いていたのです。





ノボは、彼女の兄弟の救出の手だても模索します。

『ニキルがカワチに現れた当初、言葉は通じたのかな?』

『いいえ。言葉はすぐには通じなかったといいます。
それでわたしは、あなたに似ていると思ったのです』


『ならばやはり、おれと同郷の神なのかも知れない。
だが、ニキルも随伴者も亡くなっているとなら、直接に会見できそうもないな。
その神の子孫やヤマト大王も、同様に天と地を行き来しているという話はないのかい?』


『それはなかったです』

ノボは、人を神に仕立てようとして、様々な錯誤が作り出されているという思いを持ちました。

戦いに分を生み出すための権謀術策としての神。
神がバックについているという信仰だけで軍の士気が高まります。
しかも、戦いに際し、モラルを捨てさせることすら神が行なうのだとすれば・・・。
ノボは、強い憤りをもよおしました。

『テイタ。真の神ならば、戦いを好んだりしない。
ましてや、勝つためになら、どんな汚いことでも行えと指示することもない。
やむなく戦うときは、実力の限りを尽くして、真っ向からぶつかるのがほんとうなんだよ』


『では、わたしの信じた神とは?』

『おそらく本物ではあるまい』

そう言う自分も偽者に違いありません。
しかし、タイムトンネルのせいだとすれば、なんという恐ろしい仕掛けが世の中にあったかということになります。
これを作った者こそ、神なのか?

『あなたがそうおっしゃるなら、きっとそうなんでしょう。
わたしは、すべてを聞いてくださったあなたを信じます』


これには、返す言葉がなく、
彼女の心を救うためにも、彼女の前だけは神らしくと思うノボでした。




    芥子


さて、ミユと村の娘は、朝早くノボの家を立ち、ウラの家を目指しました。
ノボの暮らしがすさんでいるとの直感から、首長の助けが必要になるかもしれないと思ったのです。

ちょうど合議の館に向かおうと支度をしているウラと会うことができました。

ウラは、長老衆からうわさを聞いてはいたものの、初めて会うミユでした。
ミユも、どんな恐そうな人かと思っていたものの、格好いいお兄さんという雰囲気に好感を持ちました。

話が直接通じるわけではありません。そこは、身振り手振りでの会話です。

<わたしはミユといいます。ノボと婚約したのですが、迎えに来てくれません。
ノボの家に訊ねて行きましたが、居なかったので、ここまで探しに来ました>

ウラもなるべく身振りを交え、言葉は隣にいる村の娘にも分かるように言います。

『おれは首長のウラだ。ノボを慕ってこの国にやってきたということだったな。
結婚したいというのか? まだ十才というではないか。もう二、三年待ってみてはどうか』

やはり、身振りだけでは、なかなかです。
見かねた村の娘が代わりに言います。

『ミユはノボから結婚を申し込まれたにもかかわらず、ノボがひと月以上姿を見せないために、探しに来たのです。どこへ行けば会えるか、教えてください』

『え? ノボから結婚を? そうなのか。それはおめでとう。
なのに、姿を見せぬとは。うーむ。
いや、ノボは心配ない。合議にはいつもきているし、
おおかた副首長の推挙が近いので、いろいろと忙しいのだろう。
よし、それなら、いまから合議の館へ赴くが、ノボも来るはずだ。
そこで会うことができる。おれが間に入って話をしてやろう』

ウラは、ノボとテイタの関係については知っており、経緯上仕方ないものがあると思っていました。
しかし、ミユとの約束が別にできているとすれば、話は異なります。

合議の館までの道中、ウラは通訳の娘と話を交わします。
娘は憧れのウラとの話に顔を赤くするほど夢中で、ミユのほうに伝えるだけの余力はありません。
可哀想に。ミユはただ横から見ているだけです。

『納戸に、初めて目にする赤くて手触りの良い布があって、不思議な香りがしたんです。
それを嗅いでいると、ついうっとりして・・・』

『それはノボやこの子が着ていたという服ではないのか。
素材は絹とかで、長老の疑うところになっているわけだが、まだそのようなものを持っていたのか。
で、不思議な香りとは?』


『あまり気分がいいものですから、ほれ、ここに一本持って来ました』

ウラは手に取り、匂いをかぎます。

『これは芥子ではないか。なんということだ。
性格が時に変わったように思うこともあったが、こんなものを使っていたとは・・』

ミユは、村の娘がこのようなことをするとは思ってもみず、事態の急変を察しました。

ウラは、ノボを厳しく問いたださねばならないと考えました。
信頼が裏切られた気持ちも半ばあります。

翌日に迫った副首長推挙の最終的な決定権は、ウラにあり、
これではノボの釈明を待たずとも、結果は見えたも同然です。

合議の館に到着すると同時に、反対側からノボがやってきました。
ウラは、表情をこわばらせ、両方のこぶしを硬く握り締めました。
そして、入口にいた鹿皮の男に、ふたことみこと耳打ちしますと、
鹿皮の男はどこやら去っていきました。


合議の館に入ろうとするノボの目にとまったのは、まずミユでした。
ミユの目にもとまります。
ノボとミユ、どちらともなく目を伏せます。
ふたりの間には、見えない壁があるようで、声も出せません。

ウラはミユの辛そうな様子を見て不憫に思い、ノボをにらみつけました。
怒りで、ノボを叩きのめしていたかも知れません。

しかし、ミユを思い測って、無言のまま中に入っていきました。
みなが続きます。

すでに、マトゥ爺はじめ、作戦担当が集まってめいめいの席に坐っていました。
ウラは、上座の中心にくると、みなに一礼して、どすんと坐り込みます。

一同は、娘たちが後から入ってきたので、どうしたことかとざわめきましたが、
ウラが口火を切ります。

ウラ:『娘さんたちも、そこに坐るよう。
さて、今日はこのおれにとって、何もかもが厭な日になった。
今まで築いてきたものが、音を立てて崩れていくような気がしている。
ヤマトという、難敵を迎え撃つべき時に、何が起きたのかと、
みなは思うかもしれないが、このおれにもどこがどうなっているのやら、
掴みかねることばかりなのだ』

マトゥ爺:『首長がそんなことでどうする。何かあったようだな。
この娘たちがこの場にいることを見ても、何かある。うん。
これはきっと何かある。うん』

マトゥ爺は、落ち着いた物腰とユーモアで、深刻なときもさすがの最長老ぶりを振りまきます。

ウラ:『ノボ。これはなんだ。答えてみろ』

ウラは、娘から預かった芥子の一本を、ノボの前に投げました。
しかし、実の部分は黒く焦げて減っており、
火床にくべたことを伺わせます。
一同の者は、おおっと、どよめきました。

ノボは、いきなりのことに、言葉が出せません。
すでに予測できていたのは、ウラが彼女らとともに来た以上、ミユのことだけでした。
すでに事情は聞いているだろうと。
それすらも、言い訳のできるはずのないこと。

ところが、目の前にある光景は、予想もつかないことでした。

ウラ:『これを使って、日夜なにをしていた』

ノボ:『・・・』

ウラ:『ここにいる娘二人は、おまえの住処を訪ねていき、
おまえが留守のため、一泊したという。
そのとき、けなげにも、家の片付けをしたそうな。なぜだか分かるか』

ノボは、神妙な面持ちで、かすかにうなずきました。

ウラ:『そのときに、見つけたものがこれだ。しかもそのうちの一本だという』

そのとき、ミユが、ただならぬ状況を察して、声の調子を高くして言いました。

「それは持ってくるつもりはなかったんよ。この人が勝手に持ってきたんよ。
でも、ごめんね。私がお部屋の片付けをしたものだから・・」

ミユは、大声で泣き出してしまいました。
でも、何を言っているのか、ノボには分かっても、他の人に分かるはずがありません。

わずかに、事の張本人の村の娘が、とんでもないことになったことを悟り、ミユを抱えて狼狽しているばかりです。
そしてみなを見回し、かすれ声でわずかに、どうかお情けを・・と言うのがやっとです。

ウラは、娘らを思い測りながらも、表情を険しくしてなおも言います。

ウラ:『ノボ。おまえは、手ざわりの良い赤い布を持っているそうだな。
テイタが、おまえの持ち物をすべて差し出した後、なお、
そのようなものが手元に残っていたのか? 
それでなくともおまえには、ヤマトとの関係をとり沙汰する
噂が立っているのだぞ』

ノボは、事がテイタにまで及びかねないと思いました。
しかし、黙っておくと約束したことも事実。

ウラ:『これにも、答えられぬとみえるな。
いま、おまえの住処にその布を取りに人をやっている。
どういうものであるかは、すぐにも分かるだろう。
それによっては、いちばん重い叱責もやむを得なくなるぞ』

ノボは、いよいよ窮地です。いちばん重い叱責とは、死罪です。
敵方ヤマトの回し者となれば、無理もない処置でしょう。
しかし、死刑は未だこの国で行われたことはありません。
テイタのことを言ってしまえば、女に溺れた自分の性格の弱さを糾弾され、
副首長失格のおとがめ程度ですみましょう。
そのかわりテイタがたいへんです。

いつのまにか、ウラがノボのそばまで来ており、耳もとでささやくように言いました。

ウラ:『おい。ノボよ。いったいいつからそんな風になったんだ。
おまえとテイタのことは、人づてに聞いている。
その辺に何か秘密があるとは思うが、ではこの娘のことはどうするのだ?
たとえ、どのような内容であったにせよ、契りを交わした仲ではないのか。
それともおまえは、そこまで芥子とテイタに溺れたか?
とにかく、おまえが口で語らねば、真相は分からない。
分からなければ、おれとしても内部にいっそう神経を尖らせねばならなくなる。
おれは、身内を疑うということが厭なのだ。
おれとおまえの仲ではないか。
今ならまだ大丈夫だ。言ってくれ。親友のおれのために』

ミユは、自分のした行為がきっかけを作ってしまったことを後悔し、泣き伏したままです。

ノボは、ミユにも疑いが向けられるかも知れないと思いました。
しかし、テイタのことを話すわけにはいきません。

ひとことも話さないに違いないと、ウラがノボのそばを離れようとしたそのときです。
ノボが、初めてくぐもった声を出しました。

ノボ:『この子には、何の罪もありません。ただ、私の後を追って放浪し、
ようやくこの国にたどり着いただけです』

ウラが振り返り、二人の目がしっかりと合い、しばらく沈黙が続きます。
その無言の中に、男同士のやり取りがあったようです。

ウラは小さくうなずくと、自分の席に戻りました。
マトゥ爺とウラ、そして偵察担当で協議に入りました。
その間、他の作戦担当者たちは待機しなくてはならず、雑談しあってざわざわしています。

ノボが、その隙に小声でミユに話しかけました。

「ミユ。ひどい目に遭わせてしまったな。
だが、おまえに危害が及ばんようにしたい。
なんとかチャンスを見つけて、あそこから帰るんじゃ。
次のチャンスは、五日後。その次なら、四十八日後だ。
後の日の計算はできてない。なんとかそのどちらかで帰ってくれ」

「ノボはどうなってしまうの?」

「おれは、まだ行けん。心配せずに先に帰れ。
そのあと、隙を見て帰るから」

「うん」

そのとき、突然大きな物音がしたかと思うと、入口の扉から押し出されるようにテイタが入ってきました。続いて、鹿皮の男が入ります。その後ろから、よもやの第四長老も入ってきて、玄関の土間に並びました。

第四長老:『わしは、以前からトゥナ(鹿皮の男)をテイタの監視につけておったのだが、芥子の栽培は、北山の神聖地の誰も登ってはならぬ頂上付近でしていたことが判明した。いまや本人も、その事実を認めておる。ここに連れてきたゆえ、しっかりと詮議してもらいたい。』

テイタは、わなわなと震えていました。以前の奔放なテイタとはとても思えません。
それはまるで、裁きの神の前に立たされた子羊のよう。

テイタがノボを見つめる視線と、ノボのそれがしばし合いました。
なんと悲しい目でしょう。

第四長老:『テイタ。おまえの今までしてきたことを、この場ですべて言うのだ。
ノボと何を謀っておった』


テイタ:『わ、わたしは・・』




第六章








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