物語 |
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ミユ。 今日は風が強いね。 それに乗っかろう。 さあ、次の風がすぐにやってくる。 準備して。 今だ。 のった。のったよ。おばあちゃん。 足元がおぼつかないよ。 だって、空気なんだもん。 そうかい。じゃあ、風そのものにお成り。 風の気ままな気持ちになるんだ。 そして、どこに行こうかと考える。 わたしは風。 風なんだ。 あのみかんの樹のところに行こう。 なったよ。おばあちゃん。 わあ、樹にぶつかる。 ひゅーう。 ああ、大丈夫だったよ。 でもなんだかくすぐったかった。 風はそうやって楽しんでいるのさ。 いろんなものと触れ合うことが喜びさ。 もう少し、あそんどいで。 はあい。 フラフラ気ままに飛び歩き、樹や花や蝶やらにタッチしておりますが、やがて日の光が翳ったかと思うと、上から大きな風の大将がやってきました。 ああ、怖いよお。 ミユを軽がる持ち上げると、どこかへ連れ去ろうとします。 おばあちゃん、助けて・・。 ミユは、おりこうさんじゃないね。 風は死んだりしないよ。 ちぎられても、いたくもなんにもない。 でも・・でも・・。 じゃあ、大きな風のほうにおなりよ。 えっ? あ、そうか。 ミユが、大きな風のほうの気持ちになりますと、自分のしていることすべてが分かりました。 蛸の手よりももっと多い手の先に、巻きつけるようにしてたくさんの小さな風を従えておりました。 さっきミユだった風も。 そうなると、大将になったような気分です。 しかし、小さな仲間を可哀想に思い、手を緩めてやりました。 小さな風たちは、散り散りにまいまいして去っていきました。 眼下に小さく、家の縁側に並んで瞑想するミユとおばあさんの姿を捉えました。 わたしたちって、小さいね。 少し大きくなったからって、生言うんじゃないよ。 おばあちゃんは、今どこにいるの? おまえのすぐ隣じゃないか。 あっ、そうか。 そのとき、ひゅうと、鳶が肩の上に乗っかりました。 翼を広げたまま、静止しているかのよう。 飛んでる鳥って、かっこいいね。 なんだったら、その鳥になってみるかい? そうしょうかな。 そのとき、鳶は下の方に何か獲物を見つけたようで、いきなりミユの肩から滑り落ちるように、去っていきました。 行っちゃったよ。 ならば、山の上の雲のところに行ってみよう。 はあい。 ミユは、こんなふうにコカドばあさんと瞑想ごっこをして遊んでおります。 そういうわけで、ノボの悲痛な心の叫びが聞こえるはずもありません。 ノボが合議の館に着いた頃、すでに作戦会議は始まっておりました。 ウラ:『おお、ノボ、どうした。 元気のない顔をしているな。 テイタには会わなかったのか? おまえのことを案じて、裁定の結果を真っ先に聞いて帰ったようだったが。 心配するな。おまえはお構いなしだ。 ここはもう詮議の場ではない。 実は、ヤマトがハリマに兵を集め宿陣を構えようとしている。 そのことで話し合わねばならないのだ』 ノボ:『そうでしたか』 この場には、長老として腹心のマトゥ爺だけが参加しており、その他の者はみな戦さ関係のまとめ役ばかりで、ウラもこのような話が、気軽にできるのでした。 ウラは、ハリマ地方の詳細を知るべく、ノボが作った地図について説明を求めました。 地図はこの時代の吉備には画期的な発明でした。ノボは、小学校の頃、遠くに出たことはあまりありませんが、たまに汽車などに乗った折りには、外の景色を飽かず眺めていて、高学年になった頃あてがわれた地図帳で熱心に記憶の再現をしておりましたから、この特技が役に立ったのです。 幼児の地形図の記憶と、密偵によって持ち寄られた各地の見取り図や外遊したときの記憶などをもとにして作ったもので、当時としては精巧なものでした。 わら紙に書かれた地図と見取り図数十枚が、隣接する丸木作りの倉庫から運び出されてきて、みなの前に広げられました。 偵察参謀が、一枚の見取り図を指し、この場所にヤマトの宿営が作られていると話しますと、ノボはそれを地図上に示し、しばらく考えています ノボ:『この西にはカコ川という大きな川があり、またそれ以外にも、 イチ川、イボ川があります。各川下流に渡し舟はありますが少数で、 大量の輸送手段にはなりません。 陸路で千の兵を移動しここに至らせるとするなら、二十日程度かかるかと思われます』 ウラ:『海路というのはどうだ。さほど兵の疲れもなかろうし』 海事参謀:『彼らの船をもってすれば、コシマに三日のうちに至り、陸路でここに三日ほどで至りましょうか』 陸事参謀:『しかし、船に収容力はないため、 コシマの部族に海辺を見張らせて、おかしな者の進入を取り締まることができると思いますが』 海事参謀:『いやそれが、ひと船やふた船ではないのです。 密偵によると瀬戸内周辺に百隻以上保有しているとか。 なにしろ、カラの知識を駆使する者たちですから、操船技術も優れています。 また、昼ならばセトを見渡せますが、新月の夜陰などにまぎれてやってこられては・・・』 ウラ:『いちどに千人もの兵をよこされては、たまったものではないな』 海事参謀:『かつて彼らの力を読みきれなかったトミのアビヒコ、ナガスネヒコは、 地のりと部族間の連携において優位にあるも、敗れております』 これは、今に言う「神武天皇の東征」で知られる歴史的事件。 すでに百年ばかり経っておりましたが、彼らには斬新な故事でありました。 さらに問題が指摘されます。 偵察参謀:『ヤマトは、帰順して従う部族には比較的穏便ですが、 反対する部族には「うちてしやまむ」と申して、徹底抗戦で臨みます。 そして、相手を倒すに手段を選ばず、残忍冷酷。 恐れて帰順するところが多いとのことですが、その忠誠心を試すとかで、 新参部族ほど最前線に立たされたり、過度の食料徴用の義務を課されております。 功労を立てた順位で、良い立場を得るのだとか。 実にばかばかしい話ですが・・』 ウラ:『現在のところ、我等とヤマトは戦力が拮抗している。 しかし、我らには真金(まがね)で作った刀がある。 なまじの鉄剣となら一太刀合わせただけでも折りひしぐゆえ、勝算は大だ。 しかし、どれほどの人々が、血を流し死ぬことだろう。 おれは、人こそが大切であると、先代、先々代から伝え聞いている。 勇気がないと笑うかもしれないが、このいまの戦力拮抗の時をもって和睦を結べば、 ヤマトとて決して悪く扱うことはなかろうと思うのだが』 マトゥ爺:『待て。ヤマトの目的がどこにあるのか、分かっているのか? 彼らはカラの地から来て、カラと戦うために、大八島をひとつに統一しようとしているのだぞ。 今までどおりの考え方は通用しない。 彼らと手を結んだとて、より大きな戦さに巻き込まれていくだけだ。 それこそ、我らの考えと相反しておろう? それに、もうひとつ重要なことを、偵察から聞いた。 ひとつ答えてやってくれるか?』 偵察参謀:『はい。実は、密偵がカワチにおいて密かに伝わるうわさを聞いております。 ヤマトは、わがキビに蔵する宝をどうしても手に入れたがっているというのです。 それは、カラ天竺のものと同じとかで、ヤマト大王の力を絶大なものにするとか。 いったい、何なのでしょうか』 ウラ:『それは、真金のことでしかあるまい。 これをもってすれば、錆びず、石を切っても折れぬほどの刀とてできる。 好戦的な奴らにしてみれば、喉から手が出るほどのものだ』 兵部参謀:『そして、精錬と焼き入れ技術です。これがなくては何も望めません』 マトゥ爺:『このようなものをくれてやっては、奴らは何をしでかすか分からぬ。 もし我らが、万が一ヤマトの手中に落ちるようなことがあったなら、 その前にこれらを地下深く埋没させねばならぬぞ』 ウラ:『むろんそうだが、まず何より奴らの軍門にくだることのないようにせねばな』 マトゥ爺:『ヤマトによって古い連携を保ってきた多くの部族が分断され、 連携の糸が切られておる。そして、おかしなしきたりを押しつけておるという。 いずれわしらを孤立させようとしておるのじゃ。 切られた糸を繋ぎ合わせる努力も必要であるぞ』 ウラ:『うーむ。そのためには、弱小部族をヤマトの侵略から 保護してやるくらいの力の入れ方が必要になるが、それが果たして可能かどうか』 マトゥ爺:『わしら一国で、何ができようか。 まず国ほどの規模の大部族ばかりが集まって、同盟を作る。 それらに近隣の中小部族の保護に当たらせることにするのじゃ』 さて、こんなふうにして作戦会議は進みました。 さっそく、実行に移される事柄もたくさんあったようです。 会議がお開きになった頃には、すでに外は真っ暗でした。 ノボは、大した発言もできず、決してウラの期待に応えられたとは思えません。 これからテイタのもとに行かねばならないと思うと、戦に行くよりも重苦しく思えました。 <ミユ・・・> テイタ テイタの住む楠葉の家は、かつてこの山稜の一等地に花野菜の園芸をもたらした先々代の首長の住居でした。 その首長は、座を次代に譲ると外遊に出て、吉備が豊かになるようにと、諸国の園芸技術を持ち帰るのが常でした。 テイタはそのとき、アキ(広島地方)のとある部族から技術者として入った女だったのです。 ときに歳は十六。大きな楠葉の家には、ほかの技術者の女たちも幾人か同居して、この地の開墾にあたっておりました。 それから三年の後には、テイタは腕を見込まれ園芸地の管理人となり、元首長は妻とともに再び外遊したことから、この家のいっさいを取り仕切っていたのです。 そんなときに、園芸地内にノボが突然現れたのでした。 まだ小さかった彼を、当面は一室にかくまうかたちで教育を施し、約一年後に、たまたまタニハから来た巡礼が行き倒れていたのを見て、その息子ということにして届け出たのです。 テイタ自身が、よそ者であったことが、同じ境遇のノボへの親しみとなったのかもしれません。 はじめは、小さい弟ができたかのようにしておりましたが、やがて男として見るようになりました。 いっぽうノボは、ミユのことが気がかりで、残らざるをえなかったのですが、四、五年もすると、部族の様々な慣習やしきたりにもなじまねばならず、そのうちにテイタとの恋も生まれていたのです。 ノボは、楠葉の家にふらふらとやってまいりました。 そして、テイタと会うときにいつもしていたように裏口に回り、引き戸をとんとんと叩くと、中からテイタの声がします。 『おはいりよ。ここは、もともとあんたの居たところじゃないか』 ノボは、引き戸を引いて入ろうとし、中を見て驚きました。 暗がりの中、テイタがわずかな腰布で女陰を隠すようにしただけの全裸に近いありさまで目の前に立っていたのです。 奥の灯火が外から入った風で揺れて、テイタの肢体の丸く深みある陰影を揺らします。 ノボは、思わずつばを飲みこみました。 これほど女体が美しいものとは・・。 テイタが、ゆっくりと招きます。 『ああ・・』 ノボは、テイタの腰に手を回すと、腰布に今までになく柔らかい感触を感じました。 色も、暗くて分かり難いとはいえ、赤です。 この刺激的な演出に、ノボの胸はおのずと高鳴り、 やがて二人の影は、重なり合って崩れてゆきました。 その夜、中天に昇った満月が、こうこうと鬼城山を照らしておりました。 ノボがミユのもとに戻ったのは、翌日の午後のこと。 幼い行為とはいえ、仮にもミユと祝言を挙げたその日のうちに、他の女と関わりを持つなど、吉備の者においては並みの心境ではできません。 ノボの心は、自分のふがいなさと、罪の意識にさいなまれ、病み疲れておりました。 ミユの笑顔の出迎えにも、心無く作り笑いして見せるだけです。 それでもミユは、ノボの変化に気づいていません。 おばあさんが、ちょうど隣村の葬儀の仕事から帰ってきて、 ノボはすれ違いざまのおばあさんの鋭い視線を受けて急に怖くなり、 そのまま庭へ出ると、いちどは家のほうを振り向いてちゅうちょする様子を見せましたが、 けっきょく何も告げずに出ていってしまったのです。 ミユが心配になったのは、それからしばらくしてからでした。 <ノボはどこ行ったんだろう> ノボの住む家は遠く、道を知らないミユが一人で行けるものではありません。 ノボが迎えに来てくれるまで、おばあさんの家で暮らすことになりました。 さて、吉備の情勢も、ヤマトの威圧で、しだいに緊迫したものになっておりました。 ウラは、山陰地方にある幾つかの国に使者を送り、同盟を結ぼうとしました。 また、コジマやオクの親しい海浜部族には更なる協力を呼びかけました。 合議の館では、頻繁に作戦会議が開かれ、ふもとの地区では軍事教練が盛んになりました。 逆にノボは、お呼びがかかる分にはそれなりの働きをしましたが、自分から率先して何かをしようという気構えがなくなりました。 仕事の後に帰る先は、自分の家のことも稀にありましたが、ほとんどがテイタの家。 テイタの離反を恐れ、また色香に惑わされてのことでした。 ミユがノボを見なくなって、ひと月が経ちました。 ミユは、やさしいおばあさんといっしょに瞑想したり、不思議な話を聞かされたりして心の中は満たされておりましたが、これだけ時間が経つと、ノボの異変が切実なものとなってきます。 瞑想中のおばあさんの考えは、そのままミユの知っている言葉になって心の中に入ってきたのですが、現実問題をこなすにはまったく無力な会話であり、ミユから何か知らせたり、手伝おうとするときには、片言と身振りで会話するしかなく、通訳がまだ必要だったのです。 少しずつ言葉を憶えていきつつあるミユでしたが、おばあさん自身、言葉数の少ない人でしたから、それほど進歩しません。近所の人たちも、ミユが知恵おくれで、おばあさんに面倒を見てもらっていると思っているらしく、話し相手になってくれません。 とうとうミユは、おばあさんにいっしょうけんめい身振り手振りで、打ち明けました。 おばあさんが仕事に出ていった翌朝、二人だけの簡単な祝言をあげたことや、その後、伝令の呼び出しに応じて出て行き、翌朝帰ってきたが顔色が悪く、交わす言葉もそこそこに、また出て行ってしまったことなどをです。 おばあさんも、深刻な顔をして、何かいい方法を講じようと身振り手振りで応えてくれ、 まず地区長のところに、ノボの消息を問い合わせてくれた結果、ノボは元気であることが分かりました。 また、おばあさんは、動作の速い隣家の十五歳になる娘さんに、ミユの通訳の手伝いになってくれるよう娘さんの親と交渉し、承諾を得てくれました。 こうしてその翌日、ミユとその娘さんは、ノボ探しの旅に出発したのです。 その頃、ノボはテイタの菜園にいて、彼女のそばで芋の苗の植え込みを手伝っておりました。 『ノボ。あんたは、副首長になるんだよ。推挙の日もあと三日。 ここでもうひとつ大きな功績を立てておきましょう』 『そんなものは、どうでもいいんだ』 『なに弱音を吐いてるんだい。わたしが、完璧にあんたをその座に坐らせたげるよ』 『おれには、そんな資格はない』 『いいかい。わたしの館にずっと居たいのなら、わたしの言う通りにおし』 ノボは、うつろな目をテイタのほうに向けました。 『わたしは、アキのスンニという部族を知っている。 近々、アキのあまたある部族は、スンニに従うだろう。 その族長は、わたしの知り合いさ。 使者を立てて、今すぐここと同盟を結ぶようになさい。 とても大きな連合ができるよ』 『スンニは、ヤマトに敵対しているのか?』 『そうだよ。二十年ほど前、ヤマトの侵略を受けて、 族長が妻子と親類を殺されている。 その復讐心に燃えているはずだよ』 『そうか。ウラに進言してみよう』 随時の耳寄りな外部情報は、この際とても役に立つとされておりましたから、 ノボは翌朝の会議の時を待たず、ウラの館に向かいました。 ウラはさっそく、偵察参謀を呼び、スンニのことを聞き出しますと、その部族はヤマトと戦う意志を持っており、しかも他の部族を束ねる力もあるとのこと。 ウラはただちに使者を立てます。 こうして、ノボの発案で、ひとつ大きな同盟が実を結びそうな様相となりました。 その頃、ミユと村の娘は、合議の館に来ておりました。 あいにく会議はなく、知っている長老衆とも会えず、人に訊ねながらノボの家にようやく辿りつきました。しかし、ここでもノボが不在のため、仕方なくその家に泊まることになりました。 間仕切りの多い造りの良い家でしたが、中は散らかっていましたから、ミユはせっせと片付けと掃除をします。 付き添いの娘も、それを手伝います。 娘は見かねて、身振り手振りで、ノボとどういう関係なのか問いますと、ミユも身振りで素直に応えます。 娘は、はあーと嘆息して、前より増して手伝ってくれるようになりました。 ミユが、納戸の扉を開けたときです。 いろいろと雑多な物のある中に、朱色の布がひときわ目を引きました。 それを手にとって、感触が違うことに気づきました。 と同時に、いやな気持ちが湧いてくるのを止められません。 <これは、絹だわ。それになに? このどろどろした気分> 娘もミユの横に来て、赤い布をあこがれるように見つめていました。 でもミユとは正反対に、そこから漂う香りに、うっとりとした表情をしています。 同じ香りは、納戸の奥のしわがれた草の束からもしておりました。 ミユは、それを取り出し、身振りで娘に聞きます。 娘は、何であるか分からないと応答します。 しかし、娘の表情からするに、なにか気分を良くする香りの薬草のようです。 <これって、もしかしたら、麻薬かも・・> ミユは、もとの世界の知識を多少は持っておりましたから、娘をそこから引き出すようにして、納戸の扉を閉めました。 <おかしい。ノボって> ミユは、その晩眠りにつけず、村の娘の寝顔をときおり見ながら、小さな灯火をともして、ノボの帰りを待っていました。 しかし、帰ってくるはずもありません。ここのところ、テイタの家に泊まりこんでいたのですから。 その頃、テイタの楠葉の家では、燭台にともる明かりの中で、こんな会話がなされておりました。 『長老衆のうわさを聞いてきたけど、副首長の座は、ノボで決まりだろうってことだよ。 他の参謀連中は、ぼさっとして大したことをしていなかったからね』 『そうか。責任が重くなるな』 『なんども言うようだけど、副首長になったら、わたしを迎えておくれよ。 あんたのために、これだけのことをしてるんだからね』 『・・・』 『だいたい、小娘のたわごとを真に受けるようじゃあ、大の男とは言えないよ』 『そうかなあ』 『そうだよ。わたしの言う通りしていたら、もっといいようにしてあげる。 地位も名誉も、思いのままさ。 さあ、香を焚こうね。今夜も、楽しみましょ』 『ああ』 二人は、その晩も、激しい情交に燃えました。 ひとしきりの後、テイタは前々から持っていた疑問を解消しておこうと考えました。 連れ合うことが確実視されるいま、ノボの真実を知っておいてもおかしくはないと。 『ところであんた、ここに来た当初、わけの分からないことばかり言ってたけど、まさか空から降りてきたわけじゃないだろうね?』 『空? いいや』 『じゃあ、どこから来たのさ』 『タニハだろ?』 『ばかお言いじゃないよ。わたしには、ほんとうのこと言うんだよ。 いや、お言いよ。私はあんたの妻になるんだよ。 いまさら隠し立てしても仕方ないんだから』 『信じないだろうが、なんども言ってきたように、違う世界から来たんだ』 『よくわかんないんだよ。その意味が』 『はるか未来の国からというか・・』 『ぷっ。ばかばかしい。・・だけどね、ヤマトには、 天から降りてきた神と名乗る人がいてさあ、 ヤマト大王にその力を授けたって言うんだよ。 あんたももしかしたら、そんな風な人間じゃないかと思って、聞いてるんだ』 『えっ? 天から降りて神を名乗る? ・・もしかしたら・・』 ノボは、突然布団の中から起き上がりました。 コカドばあさんの話にもあった、この国以外にもたくさんあるという、"そうした場所"のことを思い出したのです。 『どうしたの?』 『いや。ないことはない話だと思って』 ノボは当時まだ子供だったので、多くの知識があったわけではありません。 しかし、十分に知識を持った大人が、タイムトンネルを通って同じことをしていたのだとすれば、その者の影響力は計り知れないことになります。 『わたしが知りたいのは、あんたがその神と同類かどうかなんだよ』 『同類というより、なんとなくその神の素性が分かる気がするんだ』 『どういうこと?』 『おれと同じところから来たのかもしれないってことだ』 『じゃあ、あの子もかい?』 『うん』 そのとき、さまよえるミユの影が、土間の暗がりをよぎったかのようでした。 目でそれを怖々追うノボ。しかし、次の瞬間、目の前に顔をのぞかせたのは、テイタでした。 『あのさあ、お願いがあるんだ』 『ああ、驚いた。なんだ?』 『わたしの兄弟が、ヤマトに囚われてるんだよ。神様同志の話し合いで、解放するように計らってもらえないだろうか』 『なんだって?』
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