物語 |
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第三章 玉
あてはないものの、いざというとき支えになってくれる不思議な霊能ばあさんのところに身を寄せるべく、山の東中腹に赴きました。 ノボがこの国に来たのは二回目です。 しかし、一回目に来たときには、このおばあさんの先代というおばあさんに出会い、付き添われてここに来たのです。 ここで不思議な話を聞かされただけでなく、あの石のトンネルの作動する時間についても教えてもらい、無事帰還できたわけでした。 ノボが二回目に訪れた今回は、前回より四十年もの時が経ており、いまはあと取りのコカドという霊能ばあさんが、ノボの良き話し相手となっておりました。 コカド:『ああ、そうじゃ。不思議なことは、山ほどある。おまえさんらがここに来なさる前の世界もきっとあるのじゃろう。石の祠にできる通路のことは、先代から聞いて知っておるよ。そういった場所は、この国以外にもたくさんあるともな』 「石の祠が作動する時は、おれの計算ではまだ先だ。けど、ミユがここで危険な目に遭いそうなときには、前もって分かっていたら、いざというとき逃げやすい。 それがいつなのか計算して教えておくから、もし万が一、おれがおらんときでも、日時に間に合わせて祠の前に行って待っとるんじゃ。ええか?」 「うん」 ノボは、このとき、おばあさんの話と自分の話のそれぞれを、ミユに丁寧に訳して聞かせています。 それで、ミユも会話に加わることができました。 「ノボは、わたしのお婿さんになるんだよ」 ノボ:『そうなんだ。この子は、いずれぼくのお嫁さんになる子なんだ』 コカド:『そうなのかい。それはおめでとう。どれ、相性を見てあげよう。・・おや?』 おばあさんは、ミユとノボを代わる代わる見ながら、気味の悪いくらいに目を細め、「うーん」とうなりました。そして、しばらくミユを、目を細めたまま無表情で見つめていましたが、やにわに目をそらすと、土間のほうを見やり茫然としています。 ノボ: 『なにか見えたのかい?』 コカド:『いや。なんでもないよ。少しめまいがしただけだ。 もう年かねえ。・・・そうだ。おまえたちに、とっておきの話をしてあげよう。 ノボは先代から聞いたことがあるかもしれないが、ミユにも聞いてもらおうかね。 わたしが言うこと、間違わずに訳して、ミユに聞かせておくれかい』 ノボ:『うん。だいじょうぶだ』 この国には、とてもたいせつな宝がある。 それは、元はといえば、世界にたった一つしかなかく、 大昔、そのまた大昔、ぽつんと空中に浮いていた。 それは、”なりなりの玉”といって、このわたしの手のひらに乗るくらいの透き通った玉だった。 あたりは、見わたす限り、なにもない。 遠い遠い遥かかなたは、どこまでも透き通っていて、広さの感じも分からんかった。 ただ、永久無限だということぐらいしか、なりなりの玉には分からなかったのじゃ。 本人も透き通っているものだから、まあ言えば、どこにもなんにもないとしか見えんかっただろうの。 長い長い時が過ぎた。 玉は、そうするうちに、寂しくなった。なんにもないのでは辛いと。 それで誰か相手が欲しいと思ったのじゃ。 すると、玉は、ひとりでに分かれて、二つになった。 どちらが、元あった自分というものでもなかった。 ただ、今までなにもなかったところに、触れ合うものがある。 玉は、その分身をすごく愛しいものに思ったのじゃ。 そして、また長い時が過ぎた。ただし、前よりは満ち足りた日々だった。 玉はそうするうち、もう一つのほうがどうなっているのか、知りたくなった。 なにせ、どちらも透き通っていたから、その思いは双方ともつのったのじゃ。 そこで、どちらもが色をつけあえばよいと考えた。 すると、ひとりでに色がついた。 なに色というものでもない。 この国のどこかにある色でもなかった。 見たことのない色なんじゃ。 そして、形も真ん丸い玉では上も下も分からんじゃろうと、すこおし窪みと出っ張りを作った。 そうじゃ。あえて言えば、桃がその形をしておるかのう。 そのおかげで、お互いがどんなふうでいるのかが分かった。 そしてまた、より一層お互いを愛しいものと思うようになったのじゃ。 それから、どれほど経ったことだろう。 玉は、際限なく数を増やしていた。 そして、多種多様に彩りを増やしていた。 玉は、実をいうと自分でこうあれば良いと気づいただけのものになったのじゃ。 それゆえ、”なりなりの玉”という。 そんなある時、一つの玉が妙案を思いついた。 そして、となりの玉にその思いを伝えた。 <わたしは魔法の絵の具と筆と画紙になるから、君は絵の描き手になってくれ。 君が思う通りの世界を描けば、その通りになるようにしよう> そして、玉はたくさんの色をそろえた絵の具になった。 我々の知るかぎりの色ばかりではない。 それは無数にあった。 たとえば、ミユなら夢晴(ときめき)色や、あこがれ色を知っていよう。 ノボなら、遥かな望み色や、思い出の懐かし色を知っていよう。 もういっぽうの玉は、絵を描きやすいように工夫して、二本の手と五本の指を持った人の形になった。 人の形になった玉は、まず絵の具の黒をとり、その中にいろんな色を混ぜて画紙に塗った。 その次に絵の具の白をとり、点や丸を描いた。 そして、彼の想いをその絵に込めた。 する画紙は縦にも横にも上下にも大きく広がった。 星や月が輝くこの空は、そのようにしてできたのじゃ。 彼は、想像の国を作ったが遊びにこないかと、あまたいる玉に伝えた。 彼とその友達たちは、いましがたできたばかりの世界に、絵の具を持って下っていったのさ。 それから。それからなんだよ。 ことがなりだしたのは。 こう言うと、おばあさんは、静かにタバコをふかしました。 「ミユ。おれはよく”ことなり”という言葉を耳にした。それはな、物事が起こったり、成り立ったりすることなんじゃ。つまり、おばあさんの言う”ことがなりだした”というのは、歴史が物語のようにして始まったということなんじゃ。分かるか?」 「うーん、よくわかんない。でも、見てみたいな。その玉」 「おお。おれは見たことがあるぞ。ウラが首長の証しとして持っとるのをな」 おばあさんは、ほっほっほと笑いました。 ミユは、玉を見たいって? それは、玉のありかを知らないから、そんなこと言うんだよ。 玉は、ここにもある。 「えっ? おばあちゃん、持ってるの?」 おばあさんは、ほっほっほと笑いながら、うなずきました。 ミユ。そんなに見たいかい? だったら、おまえに、見せてあげよう。 目をこれぐらいに細めてごらん。 おばあさんは、さっき気持ち悪いくらいに細めた目を、もういちどして見せました。 ミユも、目を同じように細めます。そして、顔を同じように、だらーんとさせました。 なかなか上手に模倣するミユです。 よくできたね。 ではそのまま、わたしのここをじっと見るんだよ。 おばあさんは、自分のみぞおちのあたりを手で示しました。 沈黙してながめること、数分もしたでしょうか。 ミユは、とつぜん口をあっと開けました。 明らかに、おばあさんの胸のあたりに、まん丸の玉があるのが見えたのです。 透明なものですから、輪郭だけが丸く浮き出ていました。 ミユ。そのままでいるんだよ。 どこからともなく、聞こえるこの声。 ノボの通訳なしに、おばあさんの声質で直接に聞いているのです。 ミユの目には、その玉の白く光るのが見えました。 それに伴って、心が軽くなります。 そのとき、ミユは心の目で、自分の胸のあたりにも、玉のようなものがあるのを見たようでした。 こんなところに、なにかあるよ。 そうだ。それがミユの玉だよ。 よし、はっきり見せてあげよう。 おばあさんの側にある玉が、いっしゅん強く光ったかと思うと、 ミユの玉がそれにつれて白く光りました。 見えた。 これが玉? 桃の形、してるよ。 ミユは、すごく幸せな気分になりました。 何かに包まれるような幸福感と、偽りのないまったくの安心感がありました。 お母さんに抱っこしてもらったときの気分に似ています。 わたしの玉と、ミユの玉が、お互いを確かめあって、喜んでいるんだよ。 それは、いちばん初めの玉が、もうひとりの玉に対して抱いた気持ちと同じものなんだ。 人はそれを、愛と言っている。 それは、あらゆるものを融合させ、高めあうものなのさ。 ノボは、幸せそうに恍惚感に浸っているミユの表情を見ておりました。 ときおり、前後にゆれています。 舟を漕ぐというのは、こういうことを言うのでしょう。 ノボは、ミユが居眠りしているよ、なんて可愛いんだろうと思いました。 それに対して、おばあさんは半眼の状態で、微動だにせず、不気味なくらいです。 ノボには、二人にどんなことが起きているのか、さっぱり分かっていません。 三人の上には、静かな時だけが流れておりました。 ミユは、ふとノボのことを思い出しました。 たしか、となりにいたはずだと。 その方向を見ると、ノボの場所にも桃のような玉がはっきりとあって、 逆にノボの体が影のように見えます。 ノボは、どうなったの? 玉は、ノボの中にも生きている。 マドカオフフスマという桃の実に包まれて、 どんな人の中にも生きている。 おまえたちは、まだしも、となりどおしの玉だったようだ。 これからおまえたちには、いろんなことがあるだろう。 だが、玉が導いてくれる。このことだけは真実だ。 ミユが、おばあさんのその声を聞いている頃には、 その場で座ったままうつ伏せになって眠っておりました。 ミユの意識だけが、目を覚まし、活動していたのです。 ・ ・ ミユが目を覚ますと、布団の中でした。 窓からは翌朝の日の光が射しておりました。 そこに、いましがた猟から戻ったかと思われるノボの姿がありました。 射止められた猪が一頭、ノボの背中にもたれかかっておりました。 「ミユ。起きたか?」 「もう朝なの?」 「ああ。昨晩おまえが、あのまま眠ってしもうたもんじゃから、おばあさんの言い付けで寝かせとくことにしたんじゃ」 「それって、猪?」 「ああ、そうじゃ。知らんだろうが、これは美味いんだぞ。 いまから、なべを作ってやる。栄養がぎょうさんあって、疲れも取れるぞ」 「おばあさんは?」 「ふもとの部落に病人が出たんで、祈祷するため今朝いちばんに出かけていった。なにもそこまで言わんでもいいのに、花嫁さんに美味しいものでも作っておあげなんて言うとった。ミユ。シチューって知っとるなあ。同じ味にしてやるで、待っとれや」 「わたしも手伝う」 ミユは布団をたたんで、ノボのいる台所にやってきました。 といっても、寝ていたところから一段下がった土間であっただけですが。 「ミユは、休んどったら、ええんやで」 「ううん。わたし、お嫁さんやから」 ノボの見よう見まねで、となりで芋の皮むきをしようとします。 ノボは、そんなミユが無性に愛しくなり、まだ小さい唇に、ちょこんとキスをしました。 ミユは、顔を赤くして、芋をむいています。 ノボは、無言で笑っています。 さて、できあがった具と汁をなべに入れて煮立つのを待ちます。 「ねえ。ノボは、玉を見たことある?」 「ああ。首長のウラが持っとるよ。これぐらいの透き通った玉じゃ。 いつも寝床の上の天井裏に隠しとる」 「ちがう。ノボが持っている玉とか、人がみな持ってる玉のこと」 「ええっ? そんなの持っとるわけないじゃろ」 「ううん。わたし見たよ。ノボにも玉があるのを。 わたしにも、おばあさんにもあるんをね。 おばあさんは、みんな持っとる言うとった」 「うーん。そんな話、ミユに通訳した覚えはないけどなあ。 そう言えばおばあさんは今朝出かける前に、こんなこと言うとったなあ。 みんなにはない素質が、この子にはあると。 おばあさんは、ごっつい見通す力のある霊能者なんじゃから。 そうか・・。おれ、おまえがそんな風で、なんか嬉しいなあ」 「ねえ、ノボ。いまここで、お嫁入りさせて?」 「ええっ。おまえもいきなり、なにを思いつくんじゃ。ここで、お嫁入り? どうやって?」 「さっきの布団、わたし花嫁衣装にしてかぶるから、ノボは向こうの使うて」 「えっ? ははは。そう? それでよかったら、やってもええで」 「嬉しい」 ミユは、寝ていたときの布団をかぶって、部屋のまんなかよりに座りました。 ノボも、自分の布団をかぶって、ミユのとなりに座りました。 そして、向かい合わせになって、まずミユが、 「どうぞ、よろしくお願いします」 と言うと、ノボがこんどは、 「こちらこそ、よろしくお願いします」 と言いました。 そして、どちらともなく、ふふふと笑い、やがて真顔になると、二人はともに目を瞑り、もういちどキスをしたのでした。 それはちょうど、マドカオフフスマに包まれた桃の実が、二つ寄り添うかのようでした。 「よし。これでおれらは切っても切れん仲や。さあ、花嫁さん。 はよ大きなるために、よおけお食べください」 「はあい」 ミユは、昨晩の夢の続きを見ているようで、とても幸せでした。 ノボも一緒になれて嬉しい気がしますが、置かれている立場のことを考えると、暗い想いに駆られるのでした。 合議その日の朝、ノボの詮議が、合議の館で行なわれました。 首長の”ウラ”を中心に、八人の長老たちが円座を組んでおりました。 第一長老が、今回のノボの件を首長に報告します。 しかし、ウラは、そのような議論が上がってくること自体、不愉快でなりません。 ウラ: 『ノボに限って、そのようなことがあるものか。おれはあいつのことをいちばんよく知っている。そのようなことのできるやつではない。いまは内部の結束を図るべきときなのに、こんなところで、足並みを乱してどうするんだ』 第三長老: 『しかし、首長。ノボの着ていた着物の素材は、交易商人の話では、何でも絹というものであるそうな。海外から渡来人がもたらしたもので、ヤマトはそれを貴重品としているとか。イズモにも、コシにもこの品はなく、ただタニハには、生産するところがあるが希少品で、この衣服のようには色付けができておらんとのことです』 ウラ:『タニハに生産地があるのだな? それでけっこうだ。もしかしたら、ノボはタニハの高貴な出かもしれんだろ。だったら、同盟を結んでヤマトと対抗するのに、かえって都合が良いではないか』 第三長老:『しかし、もしものことを考えると・・のう』 第四長老:『そうじゃ。もし内部に敵がいたら、いかに堅固な構えの山城でも、容易に打ち破られてしまおうて』 ウラ: 『なあ、マトゥ爺。おまえはよく、こう言ってくれたよなあ。ウラは光という意味であり、ノボは陰という意味だと。二人そろえば、この国に、落ちこぼれるものなどなくなると。おれは、そのような国造りを理想としてきた。先代も、先先代もそうだった。そして、いまようやく、完成の見通しが出てきたところではないか。 ノボは、何でもよく知っている。こいつの知恵なしでは、完成するものも完成しないんだ』 マトゥ爺というのは、第一長老のことで、合議の席の取りまとめ役です。 ほかの長老たちは、もっともなことだと相槌を打ちます。 異議ある二人の長老も、下をうつむいたままで、聞き入っています。 ウラ:『しかし、爺たちの懸念も無理はない。おれがもっと腹蔵なく、ノボと話をしておけばこんなこともなかったのだ。直接ノボと会って、しっかりと確かめておこう。これで異議はなかろう?』 第四長老:『ならば、異議ありません』 こうして、合議はお開きとなりました。 首長のウラが退席したあと、異議を持つ長老の一人が別の長老に愚痴をこぼします。 第三長老:『首長はまだお若いのう。光はよいが、陰というのは、悪いものである場合が多いのじゃに』 第五長老:『なにを言う。それこそ愚にもつかぬヤマトの考え方ではないか。光明神を立てて、悪しき闇を打ち破ろうとてか。我らは、昼の明るさの中でも生きておるし、夜のとばりの中でも生きておる。どっちもだいじじゃ』 さて、ウラのもとにはこの日、遠いハリマまで出ていた密偵から、たいへんな報告が入りました。 ハリマにヤマト軍が兵を集め、宿営を構えはじめたと報告してきたのです。 そればかりか、セッツ、ハリマのあまたある部族に従うよう強要しているというのです。 密偵:『ハリマにヤマトの傘下に入る族長多く、その兵力はあわせて二千ほどです』 ウラ: 『うーん。とうとう動き始めたか。では直ちに作戦会議をとり行おう。副首長、参謀級の者には全員召集をかけろ。ノボも呼び出すように』 記録係:『首長。ノボはもうよろしいので?』 ウラ: 『おれが良いと判断した』 記録係:『ははっ』 表では、テイタが館から出てくる者に、なにか問うておりました。 さて、正午になるころ、伝令がおばあさんの家に来て、ノボに合議の館にくるように伝えました。 ノボは身仕度を整え、祠のトンネルの開く日をミユに十通りほど教えると、「もし何かあったときは、ちゅうちょせず祠に行くように」と言い残して、おばあさんの家を後にしました。 きれいな菜の花畑が広がっています。 菜摘みの乙女が、ノボに挨拶します。 ときには膝の上まで着物の裾をたくし上げる娘もいます。 しかし、ノボの気持ちは晴れません。 どのような裁定になっているやら。 それによっては、ミユと会えないばかりか、もしかすると・・。 ミユをとんでもないところに連れてきたことに、後悔の思いがよぎります。 道のりも半里となったとき、大岩の陰から、テイタが突然現れました。 『おい、ノボ。良いこと教えてあげよう。あんた、ウラのお陰でおとがめなしになったよ』 『えっ。ならば、いままで通りでもいいわけか』 『おっと、喜ぶのは早いよ。それも、みなあんたがタニハ出身ということを信じてのことだ。 それもこれも、わたしが内緒にしているからだよ。 そのことをよーく、考えておいて欲しいね』 『黙っていてくれて、感謝している』 『たったそれだけかい? わたしには、欲しいものがあるんだ。その願い、叶えてくれるかい?』 『どういった願い?』 『あんたが副首長になったら、一緒になりたいんだよ』 『そ・・それはできない』 『あんたねえ、わたしにいろいろと厄介かけておいて、それはないだろ? それとも、あの子娘と何かあるの? ずいぶんと、見せ付けられたよ』 『・・・』 『言わないということは、こっちの都合のいいように考えていいんだね』 『いや、言おう。あの子とは、約束をとり交わしたんだ。もう取り消すわけにはいかん』 『なにい。この恩知らず!!』 『すまんと思っている』 テイタは、口惜しげな渋面のまま走り去りかけて、ふと立ち止まりました。 『じゃあ、わたしと、今晩だけ会って。それで終わりにしましょ』 『会って、なにする気じゃ?』 『わたしの口から言わせるんじゃないよ!! もしいやならいやでもいい。 そのかわり、あんたのこと、みんなしゃべるからね』 『・・・』 テイタはこんどこそ走り去ろうとしました。 それを見たノボは、とっさの判断で引き止めます。 『待ってくれ。・・今晩だけ。それですべて許してくれんか』 『くははは。いいともさ。じゃあ、楠葉の家に、月が上ってからおいで』 そう言うか、テイタはかき消すように去っていきました。 ノボは、その場に膝をついて崩れ、両手で顔を覆いました。 <ミユ・・・>
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