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きさ貝姫とうむ貝姫


 

 農業を主体にする民族は同じ土地に定着し、やがて都市をつくり繁栄する。これに対し、狩猟民は定地をもたず、強力な共同体を作り難く、勢力的に劣勢に立たされる。このようにして、農耕民族が文明の主導権を握っていったことが前節には語られていた。この節は、それを受けて農耕民族を襲った幾多の試練について語る。

−−−原文・・・きさ貝姫とうむ貝姫−−−
 かれここに八十神怒りて、オホチムヂの神を殺さむとあひ議りて、ハハキの団の手間の山本に至りていはく、「この山に赤猪あり、かれ我どち追ひ下しなば、汝待ち取れ。もし取らずは、かならず汝を殺さむ」といひて、火もちて猪に似たる大石を焼きて、転し落しき。ここに追ひ下し取る時に、すなはちその石に焼きつかえて死せたまひき。
 ここにその御祖の命突き患へて、天にまゐ上りて、神産山巣日のA叩に請したまふ時に、きさ貝姫とうむ貝姫とを遣りて、作り浩かさしめたまひき。ここにきさ貝姫きさげ集めて、うむ貝姫待ちうけて、母の乳汁と塗りしかば、靂しき男になりて出であるき。
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農耕民族にふりかかった試練

「きさ貝」は「消・去・隠・火」、「うむ貝」は「生む陪火」で、農耕民族や農地の崩壊と再生窒息味している。民族は他民族〈八十神)との抗争で生滅をくり返し、また農地は火山の猛威に破壊され、再び築き直されたわけである。こうして幾度となく民族と土地の世代文替がなされたことを示す。




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