|
宝物のいっぱいあった頃
思い出をたどる人へ
僕は君を知っている
草むらを踏み
土の匂いにまろんだ君
僕は土の感触を通して
おさなき日の君を知る
ここに書くのは
少し古いことかも知れない
だが同じ 輝く太陽を
そのじりじりする熱さを
多少は理解できた者として
僕も語りたい
僕は神戸の下町育ち
物心ついたとき
僕は歌っていた
ラジオのテーマソング
アイバンホーの歌
長屋のレンガ小路が交わるところ
手押しポンプ井戸があって
その横の水そうのへりの上で
綱渡りしながら
大声で歌った
近所の子とやった最初の遊び
それはメンコ
ぱちんと相手を裏返せば
僕のものになった
誰がはやらせたか知れないが
見つかれば先生に叩かれた
それでも少ないメンコを
スリルしながら
努力してたくさんにした
そんなある日 6つ7つ先輩が
もう要らんからと ブリキ缶
いっぱいのメンコをくれた
先輩は中学を卒業して
親の仕事を継ぐらしかった
大人に脱皮する悩みを知らず
僕は遺産相続されたように
すごく裕福な気になった
だがある日、学校から帰ると
宝は宝箱もろとも消えていた
ばくちはダメ 捨てたと母の声
それ以来メンコはやめた
家が狭くて宝が隠せない
それもあったが もののはかなさと
ものを見る目を一つ持ったのだ
ザリガニを捕りに行った
小四の夏休みの
ガキばかりでの行軍
ガキ大将は同学年のやつ
あとはみな小さいのばかり五人
男ばかりで意見が一致
よーし こんどは遠いぞ
覚悟してついてこいとガキ大将
手に虫網 ある者は金バケツ
素足に運動靴でくり出した
初めは町中 もの珍しそうに
きょろきょろしながら
遊びの話しをしたり
いない友の悪口を言ったり
ピント外れのHな話しをしたり
1時間も経つと
コンクリートの道が終わって
砂利道になった
ひゅっと風が吹くと
白い砂ぼこりが舞った
運動靴のゴム底を通して
石ころがごつごつする
車のほとんど通らない道
角をはやした黒牛が悠々
手ぬぐいで頬っかむりした
キセルのオッチャンと連れだって
大八車を引いていた
もうしんどいよ
のどがかわいた
まだなんか
もうちょっとや
がんばれとガキ大将
大将も先輩にこんな風に
連れていかれたんだろう
大将は右手にある田んぼに寄り道
みんなで小便してから溝を指す
前にここでドジョウを捕ったんや
そこでみんなで大捜索
水は冷たくおどっていたが
ドジョウはからぶった
ハングリー精神はかき立てられ
目指す峠の下の大ため池に着く
大将が先導して縁まで行けば
何の囲いも 立て札もなく
あるがままの濁り池が草の中
ぎこちなく足下を確かめながら
僕らは虫網と五体を駆使して
泥まみれになって
ザリガニを捕った
どこまでが冒険であり
どこまでが危険であるか
知ることができたあの夏の頃
思えばメンコも虫網も
レンガ小路の駄菓子屋から
未知のお菓子であふれた
難攻不落の宝の山
こづかい少ない僕らにすれば
2円で1個のいなかあめ
5円で1回の舐めくじ引き
当たったことなくラムネ菓子
少したまればオッチャンが
よしずの中で作るたこ焼きを
オバチャンの話聞きながら
すわって出汁で食べたっけ
せまいレンガ小路は
白墨一つで広がる世界
けんけんぱ すもう
ルールは先輩が残して
僕らが発展させた
新しい遊びを作る名人たち
気のきいた公園はなくとも
どこもかしこも遊び場だらけ
危ないよと言うおばさんは居ても
誰見とがめることない自由な時代
土や人や様々な宝物に囲まれた
太陽が顔を照らした懐かしい頃
(了)
|
|