物語




   天上人の宴 ・・・ 第九話 殺露栖星の怪(4)


          作/奥人


【今号の梗概】

どれほど科学が発達しても、弱点は歴史。タイムマシンでもなければ、自分たちのルーツすら不明なものである。だがもし、小さな手懸かりひとつでも得られたとしたなら・・。宇宙は持って回ることなく、さすが反応がスピーディだった。

 

魔弾なる記憶

 

ジーゼット星の晩餐会は、政府関係者がたくさん詰めかけた中で行われた。

 私はティシュとの関係を祝福されて、たとえこの星の利益に

 ならないとしても、ヒーローのような扱いだった。

 むろん第1のヒロイン、ヒーローは、ベンザとその婚約者であって、

 2つの奇妙なカップルの祝賀会の様相であった。

 

会場の部屋の周りには異星情緒豊かな料理が並べられ、

 気に入った料理を取り、それにあうという傍らのドリンクと

 ともにいただくという趣向の、いわばバイキング風。

 

何と、料理の中に様々なネタの寿司があり、

 たまりやあがりまでその傍らに用意されていて、

 その行き届いた配慮に、私はびっくりし、また感激した。

 

その時、ふと視線を感じたので、その方を見ると、

 何と、板前の格好をしている地球人っぽい人物が

 笑顔で挨拶した。

 

ただ、日本人的な顔かたちではなく、

 面長なため不自然さはあったが、場所が場所、

 また格好が格好なだけに、一気に親近感が高まった。

 

私:「これを作ったの、あなた?あなたは地球人ですか?」

板前:「いえ、私はエーオース人です。

 本来の任務は地球人の食材の研究で、その一環で

 各国の料理を味わい、作り方も見てきております。

 つまり、実績を買われて、星間料理人を兼務しているんです。

 でも、地球の方が、ジーゼット星にというのは初めてですね」

 

私:「ええ、僕もこんなところで

 食事しようとは思ってもみなかったです。

 しかも、お寿司なんて」

板前:「どうぞ、召し上がって下さい」

 

私はひとつつまんで食べた。おや、不思議な味がする。

 酢が甘ったるく、むしろ酒に近いようだ。

 料理人も、私の不自然さに気付いたか、ひとつ取って鼻で嗅いだ。

 

板前:「ああ、これは申し訳ありません。

 今回は日本人の方と聞いて、この料理を考えたんですが、

 調味料の酢が途中で切れたため、

 急遽、実験室から最終行程品を持ってきて使いました」

 

私:「いえ、別に悪い味ではないです。

 むしろ不思議に美味いですね」

板前:「そうですか。地球の料理は、微妙で奥深いですね」

 

私:「ところで、他にも地球人は宇宙に出ているんですか?」

板前:「ええ、けっこうおいでですよ。

 そうした方に、料理を提供しておりますからね」

私:「そうですか」

 

私はあがりを口にしながら、周囲を見回すと、

 はじめ私の側にいたティシュは、サテュロス星人向きの

 料理の方に行って、兄弟たちと楽しそうに飲み食いしている。

 広い部屋には自由に行き交い、

 おしゃべりする人たちの姿がいくつもあった。

 

接待大臣はと見ると、私との約束を果たすべく、

 早速、連邦代表に質問をしているようだった。

 連邦代表は、身振り手振りをつけて何か話していたが、

 やがて私を見つけてやってきた。

 

連邦代表:「ネアンさんですね。

 宇宙連邦から代表して参ったミーコと申します。

 地球の方だったと聞いて、驚いています。

 このたびは、めでたいよいお話を伺いました。

 地球の方が、こうして星間交流の場に臨まれるのは、

 宇宙にとっても、連邦にとっても、非常にプラスになることです。

 こうした交流がより一層進めば、

 地球も早々に連邦に加盟されることになるでしょう。

 で、今し方ケロピー渉外大臣から聞きましたが、

 地球がトラブルメーカーばかり抱えさせられていると聞かれて、

 憤慨なさっているとか」

 

何か、そのような話をしたこともあったかと思うほど、

 幻想をさまよい、その間に、

 義憤が消え失せるほどの啓発を受けたのだが、

 その記憶が曖昧模糊としている。

 しかし、ここは憤慨している芝居を打つしかない。

 

私:「ええ。そのために、昔から今に至るまで、

 地球において理想的な社会があった試しがないんです。

 実に不公平なことです」

 

ミーコ連邦代表は私の頭上を、意味深げにじっと見つめた。

 私はハゲではないはずだぞ、と思った、そのときだ。

 

連邦代表:「しかし、あなたは今、

 それほど怒っておられる様子はないですね。

 しかも、何か事情を悟っておられるご様子ですが」

 

何てことだ。見透かされているではないか。

 

私:「えっ。ああ、はい。まあそうです。しかし・・」

 

そこに、他の要人との挨拶を終えて

 遅ればせながら接待大臣がやってきた。

 連邦代表は、大臣に私をじっくり観察するように、

 手振りと表情で指示した。

 

接待大臣:「おや、ネアンさん。

 あなたから怒りの相が消えているが、どうしたのかね。

 よもやあのときの、掴みかかるような激怒を

 忘れてしまったのではないだろうね」

私:「い、いえ。憶えてますよ」

 

私は一時、地球が侮辱されていることに腹を立てていたが、

 あの死線をさまよった間に見た淡い香りの夢幻体験

 −おぼろげになっているが−

 によって、地球と人類に対して、今や誇りすら感じているのだ。

 

接待大臣は首を傾げている。

 私の心理は完全に見透かされている。

 

私:「僕の心を読んでるんですね」

接待大臣:「読んでる?いや、見えているんだよ。

 だから、注意しておくが、言葉と想いは一致させておかねば、

 ここでは信用されなくなってしまうよ。

 ほら、狼狽の色まで出ているじゃないか」

 

私:「バ、バレてるんですね。

 ということは、みなさん、心理検知器を着けてるんですね?」

接待大臣:「まあ、そう思ってもらって良いだろう」

 

私:「ならば、正直言います。

 実は、僕は意識を無くしている間に、

 おかしな夢を見たんです。

 その中で、地球と地球人類のすごさを見たような気がして。

 記憶はあまりないんですが、あの世を垣間見たというか」

接待大臣:「うーん。君は相当重傷だったから。

 もしかして、何か見てきたのかも知れないな」

 

連邦代表も、納得したように大きく頷いた。

 

接待大臣:「いや、生命というのは不思議なものでね。

 君もその一端を垣間見たのだろう。

 ・・なら、私の不思議も一つ披露しよう。

 実は、私もミーコさんもだが、心理検知器は着けていないんだよ」

私:「え、そうなんですか?」

 

接待大臣:「実は我々は、心理を視認する能力を学習的に獲得したんだ。

 耳の後ろの翻訳機の肩代わりまでは出来ないが、

 心の言葉は万星共通だろ? それに対応して、

 自然のコミュニケーション法が

 潜在的に用意されていたんだな、これが」

 

連邦代表:「つまり、それは生命体共通の潜在能力なんです。

 心理検出器は、大革命を起こす起爆剤にはなりましたが、

 研究が進むうちに、神経回路の組上がり過程で、

 同等以上の機能が得られることが分かりました。

 調べれば調べるほど、脳神経系は可能性の凝集した

 システムであることが分かってきています。

 たとえば、凄まじい演算能力を持った者がいますが、

 彼らにとって答えは、「見る」に等しく、

 遅れて超高速コンピューターが答えを追認するという具合です」

 

私:「地球でも暗算の天才と呼ばれる人はいますよ」

 

連邦代表:「連邦を通じて、

 およそ同じ仕組みの脳神経系を持つようですから、

 地球もたぶん同様でしょう」

 

私:「その脳神経系は、いやその元になる遺伝子と言っていいのか、

 誰が作ったんでしょうね?」

連邦代表:「それは難しい。我々も知らない遠い過去からあるものですから。

 あるいは一説に聞くフラクタル的階層構造宇宙の上層から

 川下に流れてきたものなのかも」

 

私は、おぼろげな記憶の中に感じるものがあった。

 

私:「どんぶらこ、どんぶらこ、と川下り?・・

 そうですよ。僕はあのとき天女を見たんだ。歴史の遺伝子も見た。

 そして、時空の錦が川のように流れてくるイメージも。

 それから・・ああ・・」

 

接待大臣:「ネアン君は、混乱してきているようだ。

 まあ、これを飲み賜え」

 

差し出されたのは、琥珀色のドリンクだった。

 私はそれを一気にいただいた。

 

接待大臣:「どうだい。はっきりしたかね?」

私:「竹林の七賢・・が出てきて・・」

接待大臣:「チクリンノシチケン?ヘンチクリンノシチ?・・

 あー、そういう名前の絵が、私のコレクションの中にあるよ」

 

接待大臣は、私の手を取って隣室に伴った。

 連邦代表も従おうとしたが、その他の大臣が話しかけてくるので、

 しばし彼らと話をしていたが、やがて総理大臣含め、

 5,6人の大臣クラスが、ぞろぞろとやってきた。

 

隣室と言っても、非常に広く、見渡す限り赤い壁。

 そこには所狭しと絵画や写真が飾られていた。

 

接待大臣:「これだよ」

 

それは何と、日本風の掛け軸ではないか。

 

私:「どうして、ここに地球の。

 しかも日本のものがあるんです?」

接待大臣:「世界各地の名品を、

 それなりのしっかりとしたルートで手に入れたんだが。

 そうか。これは地球のだったのかね」

 

しっかりとしたルート? 出所を知らないということは、

 相当モグリなところから手に入れている証拠か。

 

掛け軸の下に、何か文字が書いてある。

 「竹林の七賢図」とあり、それを注釈するように、

 ジーゼット星の文字らしきものが併記されていた。

 掛け軸には、水墨と淡い色彩を使って、

 竹林と七人の漢人が描かれていた。

 それを見た瞬間、フラッシュバック的に、夢の光景が表れては消えた。

 

私:「あのとき、何か見たんです。これに関連するものを」

 

場内がざわついた。

 「どうかしたのか」といった声が、誰の口からも漏れた。

 

接待大臣:「彼は、負傷した直後に、

 何か経験したようなんだ。どうも臨死体験だったらしい」

 

それは、かなり鮮烈なもののはずだったが、

 夢と同様、記憶が薄れている。

 私は、一番憶えていることを話してみた。

 

私:「僕はある人物から

 夢の最後のほうで聞いたんですが、

 彼はジーゼット星の人たちのルーツは

 地球にあると言っていました。

 そう言われてみれば、あなた方の顔立ちに

 似た生き物が、地球には実存するんです」

 

場内はいきおい騒然となった。

 

ケローズ内務大臣:「我々のルーツが地球だって?」

ケロロン司水大臣:「そんな馬鹿なことはあるまい」

ケロンピ植生大臣:「まるでナメクジにつままれたようだ」

ケローズ内務大臣:「あの噂の地球だぞ。考えられん」

ケロロン司水大臣:「この人は正気なのか?」

 

接待大臣:「何てひどいことを言うんだ。彼に対して失礼だろう」

大臣一同:「そうだ。それもそうだな。わいわい、がやがや」

 

なんだか、一気に地球に対する偏見が噴出したようだった。

 これを見ても、連邦代表には

 私に対して言い訳が出来まいと思われたが、

 その連邦代表が話し出したのだ。

 

連邦代表:「みなさん。私は連邦の範囲に属し、

 また将来、属すことになるであろう星の実情と歴史を

 ことごとく勉強してきております。その中で、多くの星が、

 未だ自星の歴史についてよく知っていない状況にあることも、

 私は承知しております。それは先進星と言われる所においても、同じ。

 そうした中にあって、今、彼が言ったことは、

 どうやら真実らしいのです」

 

場内はまた騒然となった。

 

接待大臣:「ちっとは静かに説明を聞いたらどうなのかね」

 

ふだん頼りないはずの接待大臣の声に、一同は静まった。

 

連邦代表:「ジーゼット星は、

 サテュロス星の圧制から逃れて独立した歴史があり、

 全ての歴史の起点を、この星への入植記念日に置いたと聞きます。

 今、サテュロス星と仲直りの段階を迎え、

 その当時の歴史を見直す動きはありますが、

 一度消し去られた記録は復元が難しく、

 恐らくサテュロス星での忌まわしい歴史に遡る勇気を奮って、

 学ぶ努力をしなければ永久に分からないでしょう。

 ここは、この友好回復の機会に、互いの歴史を、

 深い反省の心で見直すことをお奨めしたいのです」

 

総理大臣:「そうすると、あなたは、地球の歴史と、

 サテュロス星の歴史、さらにはジーゼット星が

 リンクすると言っておられるのですね」

 

連邦代表:「その通り。その可能性を論じております。

 私は連邦内の全ての星の歴史を一通りは学びました。

 その中にミッシングリンクと推測できそうな例を

 何通りか見出しております。

 その一つが、今総理のおっしゃったリンクです」

 

その時、突然後ろの方から、声がした。

 

カレン:「サテュロス星の歴史は、

 私どもが誠意をもってお教えしましょう」

 

いつの間にか、隣の晩餐会場から、

 カレンやオマール、ティシュやベンザまでもが、

 その他の人とともに入ってきていたのだ。

 

カレン:「詳しくは自星に帰ってからでなくては調査できませんが、

 私らの祖先も、どこかの星からやってきた

 ということになっております。

 しかし、その記録は、神話としてしか残っていないのです。

 ただその時、ジーゼット星人の祖先も

 一緒に連れてこられたことは確かなようです」

 

総理大臣:「そうですか。では、どうでしょう。

 この真相の発掘を、両星がより友好を深め合うための

 共通のテーマと致しませんか」

カレン:「それは良い。ぜひ、メインテーマと致しましょう」

 

総理大臣ケロッグと外務大臣カレンは、

 互いに手を取り合い、そこにどよめきが湧き起こった。

 

私はその間にも、この部屋の壁には別の何かが飾ってあるように思えて、

 重い頭を抱えながら、「七賢図」の前の集団を離れていた。

 見たことのないような不思議な絵画が掛かっていた。

 中には風景画が幾つもあったが、見たことのないものであり、

 恐らくどこかの惑星の風景に違いなかった。

 

やがて人物画のコーナーとなったとき、私は強い吸引力を感じ、

 見やった先に日本の七福神の絵を発見して、とてつもなく驚いた。

 

多彩色で描かれたその中に、

 何と忘れかけていた天女が描かれていたのだ。

 それを見て、私はその場で腰を抜かして、へたばってしまった。

 

その様子を見ていた者が驚いて知らせ、

 みんな一斉にこちらにやってきた。

 

接待大臣:「どうした、ネアン君。気分でも悪いのか。

 今回の立て役者が倒れていては、様にならんよ」

 

私:「こ、これが、天女です。夢の中の・・」

 

それとともに、「ぼろん、じゃらん」という調べも少し思い出した。

 ティシュが側にやって来て、またおなかを押さえようとした。

 これは、どうやら彼女らの種族の

 本能的な手当の仕方であったようだ。

 私は大丈夫と、彼女に今の具合について話をした。

 

その間、総理大臣ら全員でいろいろと協議をしていたが、

 やがて接待大臣が私の側に来て、こう言った。

 

接待大臣:「ネアン君。

 君は何かいろいろと見聞きしているようだ。

 ひとつ何があったか調査させてもらえないだろうか」

私:「はあ。どんなことでしょう」

 

接待大臣:「君の潜在意識に刻まれた記憶を辿りたいんだ。

 君が言ったことの信憑性を確かめるためにも、

 どうしても必要なんだ」

私:「はい」

 

接待大臣は、取り巻きの中の

 ひときわ背の高いカエルさんを手招きした。

 その人?物はすぐ目の前までやって来て、正対すると、

 両瞼を半分垂らした状態で私を見据えた。

 私は急に、眠気を催し始めた。どうやら催眠術であるらしい。

 

ゲロゲロ情報大臣:「私は情報大臣ゲロゲロです。

 あなたの世界線は既に調べさせていただきました。

 しかし、あなたがここに来るという予定はなかったらしく、

 それ以降の情報が得られないのです。

 それについては、あなたの第2の意識から聞き出さねばなりません。

 今から私が言うとおりにしていただきますが、よろしいね」

私:「はい」

 

私はその頃には心地よい抑揚の子守歌を聴くようにして、

 既に深い眠りに落ちていた。

 ただ、自分の心が、心の中に響いてくる声の主に対して、

 素直に答えを返しているような感じになっていた。

 

<さて、読者諸氏には、あの「中陰」の間における、ベージュ色の空間での出来事が定かでないに違いない。その通り。この間において、非常に重大な経過があったにもかかわらず、ネアンの馬鹿が無言の戒めを守らなかったために、時空に断裂が生じ、意味不明となったのであった。ここでは、情報大臣ゲロゲロによって、その行程が明らかにされる。−−というわけであるが、それを今回は「封じ手」として、サブルーチンHP化して、この場で近い将来お届けすることとしたい。その時は、「封じ手」の文字列もしくはゲロゲロ大臣をクリックしていただけたら、それをご覧になれるという仕組みである。文字列が下線付きの青色に変わったとき、もしくはゲロゲロ大臣の顔写真が出たときが適期につき、よろしく願いたい>

 

さて、私は催眠術をかけられたあと、

 情報省に運ばれて、深層心理調査をされることとなった。

 ティシュやベンザ、オマールまでもが反対したらしいが、

 連邦が間に入って安全を保証する形で、了承されたという。

 

私はみなと離れて情報省で1泊となり、

 翌日、調査を終えて戻るまでの間、事態はかなり進展していて、

 後でオマールから詳しく聞いて、驚いたほどだった。

 それによると、こうだ。

 

まず、ジーゼット星においては、緊急閣僚会議と

 専門家による諮問委員会が連動して行われた。

 そして、意見の大勢的一致を見て、

 地球調査プロジェクトが発足の運びとなった。

 

サテュロス星の方へは、カレン外務大臣から

 至急伝が入れられ、ジーゼット星への調査協力と併せて、

 地球調査プロジェクトの準備が進められることとなった。

 

また、宇宙連邦の方は、今までの

 地球不干渉政策の見直しを検討し、関係星に対しては、

 調査に関する取り決めと支援策作りをしていくことになった。

 

そして、3者とも私の超時空経験の検査結果を

 準用することになったという。

 そういった意味では、私もすごい栄誉を得たものであるが、

 これほど夢とも幻ともつかぬ事に真剣に取り組んでもらえるというのも、

 それこそファンタジーの世界ならではの話であろう。(^.^)

 

さて、私はと言えば、あのときの時空の断列について、

 なおのこと不鮮明になった。

 記憶の薄れというより、あの時やらなくても良いのに

 ゲロゲロ大臣が何かしたようだった。

 それについて、私は連邦代表を介して抗議した。

 すると、ゲロゲロは奇妙なことを言い出した。

 

ゲロゲロ情報大臣:「あなたの記憶は、地球に帰られた後、

 OOOO天宮を参拝すれば、

 その夜の眠りの中で明らかにされるとのことです。

 それは調査中に、天女から私が直接指示されたもので、

 指示に従って私が誘導プログラムを付加しました。

 しかし、こんなケースは前代未聞。

 何であなたの記憶から命令されにゃならないの!?」

 

そういうわけで、未だあの内容については未解読なのである。

 (ネアンが所定の場所を訪れるまで、

 あのサブルーチンは出来ないと言うわけである)

 

さてその日は、ベンザとその婚約者、

 接待大臣やオマール、そしてティシュとともに、

 私はジーゼット星の見学をした。

 あまりにも真新しいことばかりで、全てを語り尽くせる

 はずもないことであるが、ここで少し説明したいと思う。

 

<さて、この見聞録についても、ひとつのサブルーチンとさせていただこう。ネアンは約6時間に渡って、ジーゼット星の都市の有様を見て歩いた。その中からかいつまんで話したとしても、分量は相当なものとなる。そういうわけで、ここにジーゼット星見聞録への入口を置かせていただきたい。「ジーゼット星見聞録入口」の文字列をクリックしてご覧願いたい>

 

さて、見学を終えて迎賓館に帰ってくると、

 またも豪華なディナーがしつらえられていた。

 その食事の最中に、みんなの食欲を湧かせるためにと、

 総理大臣から、地球調査プロジェクトの正式スタートが告げられた。

 それはとりもなおさず、私の異界経験が、

 信憑性ありと判断されたからに違いなかった。

 

総理大臣:「・・と言うわけで、ネアンさん。

 あなたが地球帰還の折りに、第一次調査隊として

 3名の科学者を送り込むことにします。

 よろしくご協力下さい」

私:「は、はい。では、森野山に逗留ですか?」

総理大臣:「そうです」

 

森野山とは、あの山上の駐機領域を意味する。

 館の方には遊びに来ても、泊まることはない。

 だが、何と物事の決定がスピーディなのだろう。

 そのとき、連邦代表が挙手した。

 

連邦代表:「連邦としましては、

 既に地球生態系の調査に当たっている

 エーオース星に情報の提供を要請し、協力を取り付けました。

 また現在、連邦を離脱の状態にあるグリー星とは、

 トラブルが生じないよう交渉を開始しました。

 が、もしもの時に備えて、連邦軍を配備する予定です」

 

私は、最初の祝賀会で出会ったグリー星人のことだと思った。

 彼らは蟻や蜂に近い人類であると、アダムスキーから聞いたことがある。

 

私:「グリー星と何かあったんですか?」

 

私は小声で、接待大臣に聞いたが、

 彼は「よく知らないんだ」と答えた。

 無理もなかろう。彼は政治の持つどろどろとした部分には

 関わりたくない人物なのだ。

 ところが、質問がオマールの口から飛び出した。

 

オマール:「私は連邦警察の指揮官をしておりますが、

 昨今のグリー星人とは、地球近辺において

 戦闘寸前になることがあります。

 彼らは、我々が地球に干渉することを非常に嫌っています。

 地球と彼らは昔年の関わりがあるようなのですが、

 それが何であるか分かりませんか?連邦代表、如何でしょう」

 

連邦代表:「それは失われかけた歴史に属することで、

 不明瞭に付き、誤解を招くような形での言明は出来ません」

 

連邦代表の表情に陰りが走った。

 

連邦代表:「ただ、両星のルーツを探るという、

 純学術的理由による調査に関しては、

 既にエーオース星などの例もあるように、

 問題がないと言えます。

 今ここで必要なのは、その調査結果のみであり、

 グリー星とのいざこざでも、地球への干渉でもありません。

 よって、その限りにおいて行動して下さい。

 もしもの時には、連邦軍が介入します」

 

連邦代表が、何かの秘密を持っていることは、

 誰の目にも明らかだった。

 

接待大臣が、私にだけ小声で囁いた。

 

接待大臣:「ま、これ以上話題には上るまいが、

 積極的解明の動きとなって現れるかもしれん。

 もし我々のルーツが知れたなら、

 歴史解明の熱望も避けられまいからな。

 そこで、グリー星が歴史に関わっていたり

 していなければいいんだが。

 どうも妙な予感がしてならないよ」

 

そのとき、連邦代表を思いはかったように、

 総理大臣が毅然として立ち上がった。

 

総理大臣:「では、学術的調査に限定して行動するということで、

 みなさん、よろしいね」

 

全員一致の賛同が得られたのであったが、

 全て事なきを得るというわけには行かない

 だろうという不安が、どの出席者の心にもよぎった。

 

私たちは、翌日帰途についた。

 私たちの乗るオマールの船に、ジーゼット星の科学者の船が続き、

 遅れて、サテュロスの科学探査船1機と、

 連邦軍の3機がそれぞれの拠点から地球へと飛び立った。

 さて、どんな事態へと展開するか。次号、ご期待。


→天上人の宴(10)



comment



ついに主人公は宇宙史に足跡を残すヒーローに。

それもこれも、物語ゆえに出来ること。

ここに載っていることは全て空想の産物です。

読者はゆめゆめ、人生をバーチャル化して軽んじてはいけません。







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