物語





ホラーSF・・・・・「スカイフィッシュの日」

            作/奥人





西暦20xx年yの月、人々は若年世代を中心に、わけもなく荒れ狂うようになった。
その有様は、まるで自ら苦しみもがく如くであり、どこか麻薬の禁断症状にも似ていた。
あるいは、無表情ににたにた笑い、血の嗜虐を求めるゾンビのようでもあった。

中高年層は、確かにいらいらしてはいたが、それは世の乱れを憂う側のように思われていたため、相対的に目立ちはしなかった。

子供においては、犯罪の低年齢化が進んだとはされていても、幼児に関しては、どこか落ち着きがなく、集中力に欠けるという程度であり、長じた先でどうなるか知れたものではないと憂慮される程のことであった。

風水師であり、針灸師である幻魔小太郎は、これらの現象を総合して、こう言った。

「これは、どうやら”気断”の現象だね」

「先生。それは気の流れが途絶えているということですか?」

「ま、そういうことだね、江戸川くん。人はパンのみにて生くるにあらず。”気”は、空気と同様、生命には必須のものだ。君に今まで、生き物にはそれを今ある形に維持するための”鋳型”()があると言ってきたね。その鋳型に与える食事が”気”なんだ。
それまでにも、気の減少の傾向は見られていた。だが、この一月の急激な変化はいったい何なのだ?まるで、窒息状態に陥ったかのようじゃないか」

幻魔氏の風水術によって、かつて自らの命を取り留めたことのある物理学者の江戸川教授は、”気”というものへの科学界の取り組みがまったくなされていない現実を遺憾に思いながら、以前に激しい議論を飛ばし合ったことのある異端科学者、催奇麟太郎に連絡を取った。

「今回は、君の出番みたいだ。私は影で協力するから、ひとつ調べてみてくれないかね」

「いいでしょう。しかし、あらゆる分野からの総合化の努力が必要ですよ。思いこみの強い専門家の意見はもうこりごりですからね」

「ああ。私の人選を信じてくれたまえ」

下野していた貧乏学者の催奇のもとに、久々に仕事が入った。

<”気”を途絶えさせるものとはなんだろう?幻魔氏の話では、風水上に深刻な問題は見当たらないというが・・>

彼の情報ネットは、二段階ほど常識から外れたところにあった。
そこから奇妙な画像を手に入れた。

それは、奇妙な棒状の影が、人と交錯するように飛行している数フレームだった。

その撮影者のコメントを見ると、「かつて上空を飛行していたはずのロッドが、最近は低空を飛ぶようになった。しかも、生き物と交錯することなど、以前にはなかったものが、今ではどこででも撮影できる・・」と書かれていた。

以前からこの情報源に目を留めていた催奇は、この撮影者とはかねてより意見交換をしあっていた。

「ええ。我がクラブの創始者の話では、阪神を襲った震災の直前に、おびただしい飛行が見られたそうです。またこんな話もありました。ロッドが二機、上空で交錯したことがありましたが、真下にあった建物が数ヶ月の内になくなったそうです」

「そうですか。それは奇妙に思われたでしょうね。あなたはその現象につき、どうお感じですか?」

「ロッドが異変を予告していると感じましたね。人に教えようとしていた感もあります。彼らは人の想念を読み取るようですから」

「いや。それはとても興味深いですね。何か彼らから信号みたいなものがありましたか?」

「もうだいぶ昔のことですが、彼らはあえてファインダーの範囲内に写り込もうとしたり、私らが仕掛けたパフォーマンスに乗ってきたりしましたね。だから、ずいぶん、人懐っこいなと思ったことがあります。でも、最近はただランダムに飛んでいるだけです。スピードも前よりずっと速いみたいですし・・」

彼らの撮影していた物体は、ロッドとか、スカイフィッシュとか呼ばれていたUFOで、発見の当初は騒がれたみたいだったが、その頃ではほとんど話題になっていなかった。

だが、雲間から巨大なもやもやとした影が現れたり、不鮮明とはいえど菱形、平行四辺形型、足付きロッド型など、形や大きさの多種多彩さには驚くほどのものがあった。

催奇は、この現象と、何か結びつくに違いないという確心を持った。

次の日、催奇は神話研究家の古老おくんど氏に、こんな質問をしてみた。

「空を飛ぶ魚なんかの神話はないですか?」

「ああ?何? 空を飛ぶ・・・?魚が登場する神話はありますが、みな水の中にいるように描かれていますね。しかし、神話というもの自体、次元の異なる空間での話です。神話空間での出来事というか。それが、現実のこの世界と交錯しているなら、向こうの水中が、ここの空中であっても、おかしくはないですなあ」

「そういう神話的な魚には、どんなのがいますか?」

「ああ。なんでしたかな・・・。ああ、そうだ。ゾロアスター教の神話に、善神アフラ・マヅダに付く者の側に、カル魚という魚がおります。不老不死の薬のもとになる白ホームの苗木を守る巨大魚だとされとりますなあ。彼らは霊食であり、世界の建て直しの日まで、苗木の周りを回りつづけて、何も食べることなく、庶魔が入り込まないように見張っているとのことです。だから、今でもいることになりますなあ」

「庶魔が入ろうとすると、どうなるのです?」

「ああ、ええと・・・。それは・・・食べてしまうんです。どちらも、霊質といって、微細であるゆえに不可見であるという状態の生き物だそうですから、それを肉として食べてしまうんですなあ」

「それがカル魚のエネルギー源なんですね?」

「ああ、ええと・・・ま、そういうことになりますなあ」

催奇は、この神話にも、一縷の真実が含まれていると感じた。
直感的に彼は、実在するこの奇妙な生き物が、人々の霊質、つまり”鋳型”を襲っているのだと感じたのだ。

このことを江戸川教授に話し、さっそく、幻魔氏の家で集会となった。

UFO撮影クラブの撮った画像データーが、みなの前にランダムに置かれていた。

「善神に付く側のカル魚が、人に悪さをするはずはないと考えられるが、庶魔の類であれば分からんな」

「カル魚は、イルカ型をしています。それゆえ、この大きいスカイフィッシュがそうだと言えませんか?だが、この小さい帯状のやつは・・」

「庶魔の類で、この人物とクロスしている写真のように、人を襲うのかもしれないな」

「先生。これは古来から、妖怪”一反もめん”と称されたもののようではないですか?この妖怪に巻かれた者は、精気を失うといいます」

「つまり、悪さをかつてしてきた者の類というわけか」

「もし彼らが、大昔から存在したのだとすれば、彼らの間では、捕食関係が成り立っていると考えられます。大型魚が、小型魚を捕食し、小型魚は、より小魚か、プランクトンの類を餌にするといったような関係です」

「そうだ。そのプランクトンに相当するものこそ、”気”なんだよ。この”気”は、地中から湧き出す。地殻変動のもたらす自然の恵みなんだ。それを受けて、あらゆる生き物は生かされている。しかし、それが生き物に渡る前に、彼らによって捕食されてしまっているとすれば、おそらく気断ということもあり得るだろうな」

「ならば、我々も、いずれ窒息あるいは、飢餓状態になるので?」

「君たちが、なんの考えもなく過ごすならば、いずれそうなっていくだろう」

「そのときには、錯乱してしまうのですか?」

「そうだね。若い人は、”気”の消費量が多い。これによって、精神活動を旺盛にし、自分の可能性を切り開いているという側面があるんだが、途絶えれば精神活動が一気に落ち込んでしまう。錯乱は、そのときの反動と見られる。
それだけでなく、鋳型のやせすぎというか、不安定化によって、遺伝子病のようなことが起きてくるだろう。たとえば、癌やリウマチなどが揚げられる」

「先生。癌は紫外線など、自然界の放射線量増加や、発癌物質の蓄積、リウマチなら抗生剤の多用などが原因として囁かれておりますが」

「以前から言ってるではないか。現実と異界は、表裏の関係にあると。一方だけが早く、一方だけがよりひどいといったこともないんだ。互いに投影し合っているというか。
そうだ、君たちはこれから少なくとも、次のように過ごしたほうがいい。これによって、君たちは、大気から濾し取るように、”気”を体内に取り込むことができるはずだ」


幻魔氏は、一堂に集まった彼らに、ある種の呼吸法を教えた。

「おそらく彼らは、弱った者の順に襲っているに違いない。弱って群れから外れた者から順に、強者の餌になるのは世の常だ。早い内に餌にならないために、気力だけは充実させておくにこしたことはないだろうな」

「先生。まさにそうだとして、では問題は、なぜ彼らが、自然のサイクルを乱してまで、捕食行動を取るようになったのでしょうか?」

「うーむ。やはり、自然のバランスを崩す要因があったと見るべきだな」

「それは何ですかね」

「よく分からない」

その頃、新聞誌上をにぎわした事件があった。
わずか1週間の内に、世界各地で球電現象が頻発したというのだ。
これは、昼夜の別なく、空中でプラズマ球が突如盗発生し、急速飛行し、消散していくというものだった。

しかし、ある種の趣味のものにとっては、これぞUFOではないかと小躍りしたのである。
世界的にも撮影例が数百に登った。

そして、またもUFOブームなるものが囁かれ始めたが、一方で堅物な科学者によって、プラズマであると一蹴され、それに対抗するように民間素人学説が目白押しとなった。

アメリカや日本の政府の見解は、あくまでも、宇宙人は今のところ見つかっていないから、ブームを加熱しないように自粛すべきであるとの意見に終始した。

しかし、奇妙なことに、その直後、そのようなUFO現象が起きていない地域、とりわけアフリカで、またも謎の奇病が蔓延した。

それは、人間ばかりでなく、動物にも波及したのである。
二万人の人々が死に、十四種族の動物の絶滅が確認された。

例のUFO撮影家から、催奇のもとに報告が入った。

「何か特殊なことがあったら教えてくれと言われてましたよね。実はあの期間、謎の発光体(球電現象)が私のビデオカメラで四回捉えられたんです。
ところが、今まで良く撮れていたロッドタイプUFOがほとんど撮れないというか。撮れていても、一回の出現当たり、わずかに1フレーム、つまり1/3〇秒コマでかろうじて写るという高速飛行ぶりなんです。
こんなことはかつてなかったです。まるで、UFOが先を争って逃げ惑っているという感じというんでしょうか・・」

「なんだって?」

「テープのコピーを送りましょうか?」

「あ、ああ。お願いします」

催奇はひとつの大きなヒントを得た気がし、
幻魔氏の家では、直ちに集会が開かれた。


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スカイフィッシュとして非公式に知られるようになった生物は、狂ったように暴れ出していたのである。
その理由は、この地球すら、生存に適さなくなったと焦り始めたからであった。

今から15億年前、火星は原因不明の重力減少を引き起こした。
大気は、減少する重力に支えを失い、宇宙へと流出していったのである。
こうして、火星上に繁栄を謳歌した生態系は、酸素の供給をしだいに断たれ、窒息するようにして死滅していった。

陸上の生き物はそうであった。大気の希薄化に伴い、有害宇宙線が地上に降り注ぎ、死滅の様相は加速されていった。
だが、火星上に存在した豊かな水域は、まだしも生命を維持していたのである。
しかし、次のステップとして起きてくるのは、水分子の宇宙への流出であった。

そこに棲む魚類は、深海に棲息するものほど、まだしも生存圏が広く確保されていたが、上層に棲む種族から順に、有害放射線の災禍に曝され絶滅していく中、自然界の生命力は驚くべき変態を遂げさせたのである。

魚類は、まさに干上がろうとする寸前の幾多の潟と水域にいて、自らの固体液体気体の三相でなる体を、プラズマ相の体に遷移させる努力をし続けたのである。

それは、99.999・・%失敗した。しかし、残るわずかな期待を担った魚類が、プラズマを生きるための体として組織し直して、空中に登場したのであった。

希薄な大気は、プラズマ化するに容易であり、彼らはまだしも太陽風から遠い火星上の安全な領域に移動し集まり、それから今に至るまで棲息し続けていることになろう。

彼らは、空を飛ぶため、スカイフィッシュと呼ばれるに至ったが、至極妥当な命名であったことになる。

ところが、彼らは、捕食によって生きるという習性を相変わらず持っていた。
弱小なタイプのスカイフィッシュは、大地から涌き出るイオン流を、かつてプランクトンに対してしたように捕食していた。

しかし、大きいタイプのものは、鯨やサメや蛸のように、他の弱小なものたちを捕食していたのである。火星の限られた大気圏においてそれは長い間繰り返され、今でもそれは火星の彼らにとって安全な生息域で行なわれているはずである。

ところが、火星それ自体の火山活動の鎮静によって、大地から湧出するイオン流が減少し、彼ら新しい生命体たちは、再び危機を迎えることとなる時期があった。

食料の分量に比べて、人口が増えた場合、活路を見出す試みは生物にとって重要なものとなる。
その頃には、彼らにも高度な知性を備えたものが多数種いた。いや、ほとんどがそうであったと言っていいだろう。

彼らは直感的に、太陽に近いところにあるもうひとつ内側を回る惑星・地球に目をつけた。
直感的に、彼らは地球に生命の豊かな萌芽を感じ取ったのである。
そして、かつてのこの星(火星)と同じ程度の組成でなる環境に変え得ることを直感したのである。

苦しいながらも彼らは、一時的に捕食関係を中断して、危険な地球への旅行にトライする。
何グループも何グループも、トライが始まった。
あるいは、同一種族単位で行なわれたこともあった。

そして開発されたルートというのが、極近となった彗星に、太陽風の影響を極力避けながら乗り込み、彗星が地球に近づいたときに、太陽に面したその反対側から、太陽風によってプラズマの体が分解されてしまわないように、侵入していくというものであった。

こうして、地球上に彼らは、ほぼ太古の頃から登場していたのである。
ある者は、水域にかつての生存可能な条件を見出せば、固体液体気体の三相でなる体に作り変えた。

すべては、彼らの元の鋳型を、物理次元にコード化し直して、DNAを作り上げ、その発現の過程に鋳型を関わらせたのである。

そうして、魚類を中心とする生命は、地球上に栄えていった。
いっぽう、プラズマ体のままのスカイフィッシュも、依然存在した。

彼らは、捕食関係を保ちつつ、物理次元とは少しかけ離れたところで、自然のサイクルを営んでいた。
というのも、彼らは霊質を主体としており、従体としてプラズマの体を物理次元に投影して、物理次元との関わりを持たせていたからである。

ところが、高度な知性と応用力はあるが、排他的で思い込みの強い人類の登場で、自然破壊はなにも地上ばかりでなく、大気圏から電離層という空中の広範囲にまで至っていたのである。

とりわけ、自然界の発する以外の人々の発する電波の威力はすさまじく、それは相乗すると、球電プラズマをも発生させるほど強力で、スカイフィッシユたちの微妙な体を激しく痛めつけていた。

彼らは、昔であれば、もっと落ち着いて飛行していて、人の目にも容易に触れることができたであろう。
こうして、人はこの不思議な生命現象に神秘を感じることもできたし、自然界への畏敬の念を持つこともできたはずであった。

ところが、電波は垂れ流され、彼らの多くは痛みに耐えかねて電波の至らぬ洞穴に篭もるようになり、比較的強い種族は逆に電波源から直接、ミネラルを得るようになったが、痛みを押してやむを得ず高速で飛びまわるため、エネルギーロスは激しく、主食とする霊質をとうとう生きた者から直接にでも摂取せねばならなくなったのである。

まだ目撃されるものなら、彼らの存在に注意も払われたであろうに、大方の一般人に気付かれることはなかったのだ。
だが、ごく一握りの者が、その存在を知っていたかもしれないふしはある。
それは軍事関係者だ。


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催奇は、まだ以上のような全体的な因果関係に関する解答は持っていなかった。
しかし、彼らがかつてなかったところから、捕食しているという事実を語ることはできた。

「彼らが、やむなくそれをしているならまだ良いです。しかし、彼らも人間から情報を読み取っているという報告が入っています。ならば、これからもっともっと電波環境が悪化するという、時代の趨勢を彼らが読み取ったら、どうなることでしょう。
反撃? いや、考えたくないですね。彼らは彼らで、受動的に、生きる道を模索してくれればいいのですが」

このことを聞いて、江戸川教授は、米国防総省に質問を入れた。
質問したことに対して、この頃は比較的容易に解答を聞き出すことができた。

「球電現象は、ハープの実験によるものです」

「それは何を目的とした実験ですか?」

「それに関しては、暗号化されたものしかお伝えできません」

「それは?」

「”天上のミカエル、サタン掃蕩作戦”という作戦名がついています」

「えっ?」

「聖書に載っている、あれです」

「は、はあ・・・。では、いつその作戦の本番は実行されるのですか?」

「20xx年z月1日です」

<もうすぐじゃないか!>

そのとき、部屋の中を一陣の風が吹きぬけ、その瞬間ではあったが、赤く光る眼を吊り上げたスカイフィッシュが、彼のほうを向いたような気がした。

<しまった!聞かれたかもしれん!!>





(*)鍼灸師の間では、この種の体(ここでは、”鋳型”とした)のあることが知られている。手足を切断したことのある人が、後に、切断されてすでにないはずの部位に痛みや痒さを感じる”幻肢痛痒”という現象が数多く報告されている。そして、ないはずの部位に鍼灸治療を施すと、正常体の人にしたと同様の血流改善や痛み解消がみられるなどのために、実物の肉体に対して影のように存在する経絡の張り巡らされた体のあることを認めているのである。

Comment


スカイフィッシュという特殊な第三者を持ち出さずとも、
すでに我々は強烈な電波の海に沈み、

誰彼の脳、内臓を問わず、高エネルギー電磁波によって
冒されている可能性が大いにあります。


電子レンジの中でうだったような頭脳が奏でる未来とは・・・。



チーン!!(笑)



Comment & Story by 奥人


(多少の事実を元にするも、ここに登場する人物、仮説はすべてフィクションです)







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